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ブルータリスト (2024):映画短評

ブルータリスト (2024)

2025年2月21日公開 215分

ブルータリスト
(C) DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVES (C) Universal Pictures

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

なかざわひでゆき

自由の国を謳うアメリカの不自由

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ホロコーストを生き延びて渡米したユダヤ系ハンガリー人の男性ラースロー。ヨーロッパでは高名な建築家だったキャリアもアメリカでは通用せず、後から呼び寄せた家族と共に血の滲むような苦労を重ねる。さながらアメリカン・ドリームの不都合な真実。保守的で排他的な米社会の現実。ラースローの素性を知った大富豪がチャンスを与えるも、しかし結局は先に来て成功した移民の子孫が新しく来た移民を安く使って搾取し、不要になったらポイ捨てするという今も変わらぬアメリカの現実を突きつけられる。そういう意味では非常にタイムリーな作品。インターミッションにヴィスタヴィジョンと、古典的ハリウッド映画スタイルの復活も要注目だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

反転する摩天楼――実は異能監督の壮大な怪作

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『戦場のピアニスト』のラインを想定していると驚く。ブラディ・コーベット監督の特異な個性がそのまま大胆に拡張された215分として大いに楽しんだ。基本は『シークレット・オブ・モンスター』『ポップスター』と同じく、架空の人物の実録風伝記映画。固有の歴史や時代状況の中から本当に生まれてきた様な人物を創造し、その半生をプログレの如き組曲形式で描くといったものだ。

今回の主人公、バウハウスを経てブルータリズムを提唱した建築家ラースロー・トートは、同じハンガリー系ユダヤ人のマルセル・ブロイヤーら何人かを融合したものか。トートと資本家ハリソンの関係は『オッペンハイマー』のオッペンハイマーとストローズに近い。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

映画監督魂を見せつける、実に堂々とした傑作映画

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

「これぞ映画だ」と見せつけてくる、絶対に劇場で見るべき作品。50年代後半に使われたビスタビジョンをあえて使い、途中休憩をはさんで、じっくり、どっしりと人間ドラマを描いていく。始まりは「序曲」、最後は「終幕」。フェリシティ・ジョーンズ演じる妻も、要のキャラクターでありながら休憩後まで姿を見せないという焦りのなさ。ブロディ、ピアース、ジョーンズには長いせりふもかなりあり、演技の見せ場だらけ。音楽、美術もすばらしい。人の集中時間がますます短くなり、次々にあれやこれやと押し付けてくる配信時代に喝を入れるような、実に堂々とした映画監督魂に拍手。状況は違っていても、移民の話には現代人も共感できる。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

アートと金、自由と権力、その間に社会を見る

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映画製作もそうだが、アーティストと投資家の関係は複雑にして多彩。本来なら自由であるべきアートが、権力者の思惑よって制約されることもある。そこに注目しつつ、米国社会の現実を浮き彫りに。

 主人公の建築家は自身のブルータリズム主義に忠実であろうとするが、寛容に思えた気まぐれな投資家はアートの本質を理解せず、営利や合理優先で状況を振り回す。ブルータルとは“残忍”という意味だが、どちらがブルータリストなのか?

 アーティストが犠牲者側と思われるかもだが、主人公を聖人ではなく弱い人間として描く点に、コーベット監督らしいバランス感覚が生きる。力作。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

このタイミングで製作された意義

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

近年はジャンル映画かウェス・アンダーソン監督作の印象が強いエイドリアン・ブロディが、出世作『戦場のピアニスト』系の大河ドラマに帰ってきた! フェリシティ・ジョーンズも『博士と彼女のセオリー』を想起させる内助の功キャラを好演し、オスカー候補なのも納得。トランプ大統領が槍玉に上げた建築様式「ブルータリズム」がテーマであり、架空の主人公は同じハンガリー系ユダヤ人の建築家マルセル・ブロイヤーの姿と重なるため、このタイミングで製作された意義が見えてくる。215分の長尺に尻込みしそうだが、15分のインターミッション付き。各100分の前・後編をイッキ観する感覚で楽しむべし!

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平沢 薫

映画を建築物のように組み立てる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 建築家が建物を組み立てていくように、映画を構築しようとする試み。ドイツの芸術運動バウハウスの建築家である主人公が、自分の理念に沿った建造物を組み立てていく。それを、ブラディ・コーベット監督が、映画という構造物を構築する、というコンセプトで描いていく。

 冒頭からの、画面上の文字の書体と配置、自由の女神像が見える時の大胆なカメラワーク。省略ではない抽象化。場面によってはモノクロに近く、光と影の対比を強調して形状を際立たせる。映像で描かれていることと、そこに流れる別の視点の音声のコンビネーション。建築物が、物語中の意味、画面の構成要素の双方で、大きな役割を果たす。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

上映時間に尻込みせずに是非!

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

今年の賞レースを牽引している一本。インターミッションを挟んで215分もある大作ですが、インターミッションのタイミングの良さもあってか意外なほどの軽さを感じさせる映画でもありました。最近はすっかりジャンル映画の人と言った立ち位置に居たエイドリアン・ブロディが久しぶりにシリアスな演技を見せてくれます。流石は最年少オスカー俳優です。ホロコーストを生き抜いた妻を演じるフェリシティ・ジョーンズも良かったですが、曲者実業家を演じたガイ・ピアースがここへ来て新境地とも言える怪演を見せてくれます。上映時間に尻込みせずに挑んで欲しい一本。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

大河ロマン的も長さを感じさせず、視覚にカッコよかったりも

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

この上映時間、そして描かれる物語から、どっしりシビアな作風を予感させ、そこで敬遠されるリスクも抱えつつ、観始めるとドラマの緩急で気持ちよく流れに乗っていける。いい意味で裏切られる作品。演出の一部である休憩15分も斬新。
何より、映像のカッコよさが際立つ。主人公が建築家であるためか“デザイン”的な見どころ多し。クレジットがおしゃれだし、メインの建築物は意匠だけでなく工事のプロセスもクールに見せ、スタイリッシュな世界に浸る。
30年におよぶ波乱の人生で、エイドリアン・ブロディの若い野心→中高年への変化は安定の名演。戦争の苦しみを引きずり続け、愛する人とのベッドで涙するシーンはオスカーにふさわしい。

この短評にはネタバレを含んでいます
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