ポライト・ソサエティ (2023):映画短評
ポライト・ソサエティ (2023)ライター4人の平均評価: 3.3
女子高生が家父長制の呪縛に戦いを挑むジャンルごった煮映画!
祖国の古い価値観を温存するロンドンのパキスタン系移民社会にあって、伝統的なジェンダーロールに抗ってスタントウーマンを目指す女子高生が、家父長制の罠に陥れられた姉を救うために大奮闘する。カンフー・アクションあり、ボリウッド風ミュージカルあり、学園青春コメディありのジャンルを跨いだ「ごった煮」感は、移民ならではの葛藤も含めて『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を彷彿とさせるが、しかしあそこまで荒唐無稽に突き抜けているわけでもない。そこが中途半端に感じられることは否めないが、しかし最後はいじめっ子まで仲間に加わって共闘するシスターフッドの精神にはスカッとする。
ヒロインが暴走すればするほど……
“パキスタン移民版『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』”というより、『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』などのグリンダ・チャーダ監督作に近いガールズムービー。アンジェリーナ・ジョリーのダブルで有名なスタントウーマン、ユーニス・ハトハートに憧れるアクション馬鹿ヒロインや付き合い良過ぎな親友、いきなり浅川マキ「ちっちゃな時から」を流すタランティーノ&エドガー・ライトのフォロワー的なノリは悪くない。だが、男性ロッカー破壊に、侵入は楽なのに脱出が難しい豪邸など、ヒロインが暴走すればするほど、脚本の粗さが目立ち始め、チャーダ監督作ほどの爽快感はない。
シスターズ怒りの鉄拳!
パキスタン移民の英国人を主人公にしたティーエイジムービーと聞き、傑作『カセットテープ・ダイアリーズ』を連想したが、ベクトルは真逆。奇想天外な方向にふれているのがイイ。
青春劇にギャグとカンフーを絡めており、監督はボリウッド映画に影響を受けたと語るが、1970年代グラインドハウス映画の香りも濃厚で、後半の急展開もすんなりと飲み込める。対決シーンにいちいちテロップが出るのも味。
女性の“声”としても有効だが、声高に反ジェンダーロールを訴えず、快活なエンタメの中に溶け込ませているのが巧い。ラストに流れるエックス-レイ・スペックスのパンククラシック「アイデンティティ」がハマる。
パキスタンの民族衣装で華麗にカンフー
極彩色のパキスタンの伝統的民族衣装に、カンフー・アクションを掛け合わされて、ド派手さが倍増。主人公は、ロンドンのパキスタン系ムスリム家庭で育ち、カンフー映画が大好きで、スタントウーマンを目指してカンフーを学ぶ女子高生リア。姉の見合い結婚に不審を抱いて調べると、驚愕の事実を発見。そこからのトンデモないストーリー展開も、現実離れしたド派手な映像にお似合い。
監督・脚本は、主人公と同じパキスタン系イギリス人のニダ・マンズール。彼女がムスリム女性のパンクバンドを描いたコメディ・ドラマ「絶叫パンクス レディパーツ!」同様、女性たちが元気。派手なバトルはみな女性vs女性。敵も女性だが、味方も女性だ。