TATAMI (2023):映画短評
TATAMI (2023)
ライター4人の平均評価: 4
自由と尊厳を求めて権力へ立ち向かう女性柔道家に胸アツ!
柔道国際大会に挑むイラン代表女子選手レイラ。金メダルを狙って順調に勝ち進むものの、しかしイスラエル選手と対戦する可能性が出てきたことから、本国の政府によって棄権を命じられてしまう。断れば自分ばかりか家族の身にも危険が及ぶ。かつてのソ連や現在の北朝鮮と同じ。スポーツに政治の思惑が絡む。その理不尽さ。不安と恐怖に揺れながらも己の信念のままに行動するレイラ、そんな彼女に「何があっても君は俺のヒーローだ」と全面支援する旦那。緊迫した胸アツのドラマが圧倒的な吸引力で展開する。さらに、教え子に自分と同じ屈辱を味わせていいのか?と迷う女性コーチの葛藤に女同士の連帯が投影される。地味ながらも傑作。
スポーツが国境を越えられない不条理
イランとイスラエルの政治的対立がスポーツの世界にも持ち込まれ、国際大会ではイラン政府が選手に棄権を強いる。そんな実話に基づく本作には、すさまじい吸引力が宿る。
モノクロ・スタンダードの画面が映るやアスリートの精神的な緊張に巻き込まれ、試合が進むほど、国の圧力や家族の危機などの状況的な緊張に巻き込まれる。主人公に勝利を許さない自国のルールや、女性の生きづらさといった不条理が重い。
音の演出、とりわけ試合中の息遣いの生々しさも生きる。国境を超えるはずのスポーツが、なぜ超えられないのかを問う力作。イランとイスラエルの監督が共同で演出を務めた事実にも感嘆させられた。
試合の興奮 x 政府の脅迫で、緊迫感が倍増
手に汗を握る。それでも畳の上に立つ主人公の姿に、絶対に屈するな、必ず勝ってくれ、と祈らずにはいられない。
スポーツの試合というだけで興奮ものなのに、そこに政府による脅迫のサスペンスが掛け合わされて、緊迫感が倍増。女子世界柔道選手権を勝ち進むイラン代表選手に、政府から政治的事情のために試合を棄権しろという命令が届く。さらに家族を人質に取られて脅迫される。男子柔道選手の実話とマフサ・アミニ事件に触発されて描かれ、映画に参加したイラン出身者は全員亡命したという実話系映画だが、権力者による弾圧は、他の場所でも起きている。静かなモノクロ映像は、影が濃く、その背後にあるものは巨大で深い。
メッセージも力強いが、スポーツ映画としての見せ方も新鮮
アスリートは国を背負って競わなければいけないのか。個人競技なら国から解き放たれ、実力をぶつけ合うのが理想では…と痛切に感じさせる力作。
自身の今後だけでなく家族に迫る危機と、目の前の大会出場を秤にかけ、それでもタタミに上る。そんな主人公の決意と恐怖が、柔道で繰り出す技にも重なる。カメラが異様に接近する対戦シーンもスポーツ映画として新鮮。観ているだけで何度も息が詰まりそうに。
実話をヒントにしたフィクションとはいえ、国側が駆使する卑劣な手段に目を疑うものも多い。
当然、現在進行形のイスラエルと周辺の軋轢がシンクロするけれど、どこの国にも共通するジェンダー問題も鋭く訴え、いま観るべき映画となった。