KUBO/クボ 二本の弦の秘密 (2016):映画短評
KUBO/クボ 二本の弦の秘密 (2016)ライター6人の平均評価: 4
NHK人形劇にハマった世代は涙腺崩壊!
LAIKA社のストップモーション・アニメ技術は作品ごとに向上し、ディズニー/ピクサーやイルミネーション・エンタにはない“こだわりの美学”が満載だ。“RPG版「桃太郎」”な大筋こそ既視感アリな本作だが、主人公・クボが三味線の音色で生み出す折り紙アートを始め、炭坑節を踊る盆踊り、灯篭流しに墓参りと、“決して間違いじゃない”ディスカバー・ジャパンな描写の数々に息を呑む。しかも、昔ばなし特有のユーモアや残酷さも盛り込まれ、「紅孔雀」「新八犬伝」など、NHKの人形劇にハマった世代は、その懐かしさで涙腺崩壊。やっと日本のスクリーンで観られた歓びもデカいが、日本語吹き替え版の出来の良さにも驚きだ!
日本を再発見させる繊細なおとぎ話×雄大な神話のハイブリッド!
三味線の音色で折り紙を自在に操る魔法の力。それは指を介して命を吹き込むストップモーションアニメの隠喩ともいえるだろう。隻眼の少年は、政宗や十兵衛よりも東映特撮ワタリの趣がある。知恵の象徴であるサルに母性を、甲冑のイコンであるクワガタに父性を託し、家族の相克を描くファンタジー。繊細な日本のおとぎ話と雄大な欧米の神話の絶妙なハイブリッドによってワビサビの新世界が創出された。何より撮影技術が驚異的。被写体があってこその光と影、一挙手一投足の魅力にVFXを融合させ、とりわけ3Dプリンターを駆使した多彩な表情の変化には息を呑む。人形アニメでは成し得なかった次なるステージは「日本」を再発見させてくれる。
アニメーションの神は細部に宿る
どんなに映画に純粋に向き合っても、作り手の国籍は、やはり頭をよぎる。この映画も、もし「日本人が作った」という前提で観たら、まったく違う印象になるはず。クボの旅に同行するのが、なぜ猿とクワガタ?と疑問が渦巻き続けたかも。
というわけで“海外の才能が作った”日本が舞台の作品として、深いリスペクトと違和感のなさに心底、感動する。あの『パシフィック・リム』『ゴースト・イン・ザ・シェル』にもわずかに残っていた「なんちゃって日本」の違和感は皆無かと。
映像はもはやアニメの手法を意識するレベルも超えるが、村人の姿勢とか、何気ない描写にストップモーションの温かみが生きている気がする。神は細部に宿るのである。
アニメーションの進化を体感できる絶品
ストップモーション・アニメというとパラパラ漫画的なほのぼの感が売りだと思っていた私は太古の人間! この作品を見て目から鱗というか思わず膝を打つというか、とにかく技術の進歩に驚愕。体の動きはもちろん、表情の微妙な変化まですべてがナチュラルそのもので感動した! ファンタジーだから欧米人が考えるエキゾチック・ジャパンでもOKな日本像に気配りしているのも好感度大。侘び寂びを表現しようとした浮世絵インスパイアな背景などもとても美しい。クボ少年がアメリカ人ぽく肩をすくめる場面などもあったが、「それ、違う!」と突っ込む回数は『ラストサムライ』よりも圧倒的に少なく、製作陣の日本リスペクトが感じられた。
ハリウッドがストップモーションアニメで描く日本昔話の世界
舞台は平安か室町か、はたまた江戸時代か。人間と物の怪が共存していたような古の日本。闇の魔物たちに追われた少年クボが、知恵者のサルと鎧姿のクワガタをお供に、敵と戦うために必要な3つの武器を探す旅へ出る。
CGではなく人形とミニチュアを用いたストップモーションアニメで再現された日本昔話の世界。それって中国とか韓国じゃね?という要素も若干あるものの、総じて和の雰囲気が存分に活かされており、作り手がかなり日本の伝統文化を勉強したことが分かる。
中でも、折り紙や切り絵を駆使した幻想的なシーンの美しさは格別。葛飾北斎や歌川国芳、斎藤清らの浮世絵や版画にインスパイアされた美術デザインも素晴らしい。
変幻自在に舞う折り紙切り紙に幻惑される
和紙が、折り紙や切り紙になり、自在に変化しながら動き回る。その紙の表面の手触り、先端の鋭さ、紙ならではの変形ぶり。物質としての紙の持つテクスチャーの豊かさに圧倒される。もともとストップモーション・アニメという技法は、物体が生命を得たかのように動きだすという一種の魔術的な魅力を持っている。この技法が、折り紙と切り紙という、日本の伝統的な遊戯であり芸術でもあるものの魅力を最大限に引き出す。
そして東洋の美学が、色彩や造形、北斎や国芳の浮世絵や黒澤映画の引用もあるビジュアル面だけでなく、物語にも反映されているところが素晴らしい。変身の感覚、許しの形などに、東洋ならではの美が満ちている。