引っ越し大名！ (2019)：映画短評

　「参勤交代」のお次は「お引越し」。江戸幕府の勝手な都合によって、繰り返し国替えを命じられる外様大名と家来たちの悪戦苦闘に、現代のサラリーマンにも通じる奉公人（大名だって幕府に対しては奉公人みたいなもの）の悲哀が浮かび上がる。『超高速！参勤交代』シリーズと原作・脚本が同一人物ゆえなのか、ストーリー的・テーマ的に被ってしまう部分は少なくないものの、ベタなギャグを交えた犬童一心監督の演出は軽妙洒脱で、明朗快活な大衆向け娯楽時代劇として気軽に楽しむことが出来る。これまでのスマートなイメージを覆し、アラカンばりに豪快で男臭い武士を演じる高橋一生が好演だ。

監督違えど、原作・脚本は同じとあって、『超高速！参勤交代』での既視感強し。しかも、すぐに出発する『参勤交代』とは違い、こちらは準備期間が肝とあって、地味目な印象も強い。そんななか、ノリノリで松平直矩を演じる及川光博はもちろん、「逃げ恥」の平匡が江戸時代にタイムスリップしたような“こじらせ書庫番”を演じる星野源が健闘。そこに武芸の達人役とはいえ、何かにとりつかれたような大立ち回りを魅せる高橋一生や、気が強すぎる子持ち役もハマる高畑充希ら加わった時代劇コメディは、観る世代を選ばないだろう。とはいえ、エンタメ色を強めた脚色に関しては、ちょっと盛り込みすぎた感はある。

『超高速！参勤交代』や『殿、利息でござる！！』などの系譜につながる天下泰平の世の等身大時代劇。
メインキャストがパブリックイメージ通りの演技を見せる中で、生まれる時代を間違えたような武編者を演じる高橋一生と逞しいシングルマザーを演じる高畑充希が新鮮に映ります。
何より久しぶりにスクリーンで星野源を見ることができる。しかも時代劇ということでとても貴重です。頭を掻き乱しながら七転八倒する姿を見ると星野源の金田一耕助が見たくなりました。