MOTHER マザー (2020):映画短評
MOTHER マザー (2020)ライター4人の平均評価: 3.8
『誰も知らない』との比較は避けられない
自由奔放すぎる毒母と子どもとの関係性や、初演技にして長男役を演じる奥平大兼が柳楽優弥を彷彿させるインパクトがあることで、やはり『誰も知らない』との比較は避けられないだろう。大森立嗣監督が得意とするダークな世界観の中、長澤まさみにとって、新たな意欲作ではあるが、ガチな怖さを醸し出すYOUとは異なり、“演技してます感”は否めない。そのため、仲野太賀との「虫コナーズ」延長戦など、魔性の女感はスゴいが、子どもを完全支配している毒母には見え難く、最後の「なぜ?」の回答の説得力にも欠けてしまった。ちなみに、阿部サダヲと皆川猿時の絡みは、大人計画好きにはたまらないコントノリを堪能できます。
”怪物”誕生
とにかく徹頭徹尾長澤まさみを見る映画です。
『“長澤まさみの”MOTHER』というタイトルに書き替えてもいいのではないかと思います。
奥平大兼を筆頭に共演者たちはまとめて文字通り喰われています。
昨年2019年の『コンフィデンスマンJPロマンス編』と『キングダム』の演じ分けも驚かされましたが、今年2020年の『MOTHER』と『コンフィデンスマンJPプリンセス編』の役柄の差には驚かされるばかりです。
大森監督は女優を化けさせるのが上手ですが、今回は想定以上の大化け、一人の怪物が誕生しました。
悲痛過ぎる共依存を、受け止める心の準備を
どこまでも、いたたまれない物語。しかし、いたたまれないからこその意味が本作にはある。
幼い息子を置き去ることに良心の呵責を感じず、働きもせず、自分の楽しみと、楽をすることだけを追い求めるのだから、まさに鬼母。一方には、ただ“お母さんを好きだから”と、言いなりになる息子がいる。
一本の映画として見たとき、なぜ母が鬼と化したのか……が見えてこない不満があるが、実際に起きた事件の映画化であることを踏まえれば、共依存の悲惨なかたちをとらえたセミドキュメントの重さは確かに宿る。新人、奥平大兼の、何にも染まらない息子役の演技が素晴らしい。
神経を逆なでする。それも、この映画には誉め言葉
観ながら終始、いたたまれない気分になる。つまり作品の目的は達成された、ということ。タイトルが示すように、これは息子視点の物語で、母に依存するしかない切実さで、奥平大兼の映画初出演らしい不安定なムードがハマる。間違いなく彼、大器の予感!
世間的には「あの長澤まさみが!」という枕詞で過激さ、邪悪さ、あられもない大胆な姿を実感できるが、では彼女を知らないニュートラルな目線で、一人の俳優の演技として観て、この毒母の闇が伝わってくるか? もう一歩踏み込んで、相手の心まで操る本能の根源を表現してほしかった気がする。突然、大声でキレたように叫ぶだけが熱演ではない。まぁ今年の映画賞には絡むのだろうけど…。