アンモナイトの目覚め (2020):映画短評
アンモナイトの目覚め (2020)ライター5人の平均評価: 3.8
演技派女優が競演した情熱的で繊細な恋愛ドラマ
封建的なイギリスを舞台にした女性同士の恋愛ドラマで、K・ウィンスレットとS・ローナンが情熱的だが繊細な演技を披露する。ウィンスレットが演じる古生物学者メアリーが陰としたら、ローナン演じる地質学者の妻シャーロットは陽。真逆にも思える二人が徐々に気持ちを通い合わせ、やがて恋の炎を燃え上がらせていくさまは演技派女優が演じたからこその説得力が漂う。特に上手いのがウィンスレットで、他人に易々とは心を開かない頑なさとを感じさせつつも過去の失恋と孤独に苦悩する表情の切ないこと。先輩の熱演に大いに刺激されたローナンも大胆なセックスシーンに挑んでいて、これぞまさに演技合戦の妙味であろう。
主人公は荒涼とした海岸をどこまでも歩き続ける
鉛色の空の下で、打ち寄せる波も灰の色をしている荒凉とした海岸で、ひとり黙々と貝を拾い集める。風のせいで髪は乱れ、泥で衣類は汚れるが、ひたすら自分の求めるものを追う。そんな主人公が、ただ海を背景に歩き続けていくのを見ているだけで、伝わってくるものがある。この人物が持つ、ある種の覚悟、揺るぎなさを体現できたのは、それを演じる女優ケイト・ウィンスレットも同じようなものを持っているからではないか。
監督の前作『ゴッズ・オウン・カントリー』同様、寒い土地でぬくもりを求める2人の物語だが、今回はそんな2人ですら思いが同じわけではない。しかし、彼らの背後に広がる空の冷たい色はよく似ている。
信憑性があり、余韻を感じさせる結末もいい
ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの妖艶なシーンがあるということで早くから話題を呼んだが、そこに至るまで、いや、ふたりの間に友情に近いものが生まれるまでにも、じっくりと時間をかけるところが今作の強み。孤独でストイック、他人に心を開くことができない古生物学者(ウィンスレット)が思いもかけずに世話をすることになった若い女性(ローナン)に対してもつ微妙で複雑な感情とその変化を、ウィンスレットはせりふなしで見事に表現してみせるのだ。現代を代表する演技派のひとりである彼女にとっても、これはキャリア最高の演技のひとつだと思う。信憑性がありつつ、フェアリーテール的な余韻ももつ結末もいい。
『乙女の祈り』から四半世紀を経たケイト・ウィンスレット
次第に愛に目覚め始める設定や、荒波うちつける海岸という状況が、先に公開された『燃ゆる女の肖像』と被ってみえてしまうのはしょうがない。ただ、そこは『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リー監督、期待の新作。数年ごとに独特の存在感を放ってきたケイト・ウィンスレットと、まだまだ伸びしろがあるシアーシャ・ローナンという2人の怪物の魅力をさらに引き出し、またも感情揺さぶる愛の物語を作り上げているといえる。淡々とした展開ながら、カット割の多さもあることから、目が離せないが、とにかく『乙女の祈り』から四半世紀を経たウィンスレットの化石オタク芝居が絶品なのである。
高まる想いを静かに、激しくぶつけ合う、王道の「愛の劇場」
前作『ゴッズ・オウン・カントリー』と同じく、本能的で、泥臭く、荒々しい。男性同士から女性同士に変わっても、この監督の愛の表現には背筋がゾワッとする激情の瞬間が何度もある。
人生経験や、相手に抱く愛情の強さと冷静さ、そして社会的地位などで、主人公2人の関係が変わっていく展開は、王道のラブストーリーを観ている印象。主演2人が一瞬の表情と交わる視線でその揺れ動く感情を表現してみせるうえ、想いを伝える重要アイテムの内容をあえて説明しないなど、映画的イマジネーションを広げる演出によって、1840年代、英国の小さな海辺の町と、一見、遠くの物語に、観客それぞれ、自身の切ない愛の歴史を重ねてしまう可能性も大。