ドリームランド (2019):映画短評
ドリームランド (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
希望を求めて「ここではないどこか」を目指す男女の逃避行
全米に大恐慌の嵐が吹き荒れる’30年代、土地のやせた貧しい田舎町の狭い世界で満たされぬものを抱え、外の世界と自由な生き方に憧れる17歳の多感な若者が、たまたま遭遇した指名手配犯の美女を助けて逃避行を繰り広げる。さながら『俺たちに明日はない』×『おもいでの夏』。ヒロインもまた希望のない故郷を棄て、自由を求めてアウトローの世界へ身を投じた女性で、惨めな人生から逃げ出すべく「ここではないどこか」を目指す男女の心の触れ合いが描かれる。継父や母親の愛情と恩を仇で返すような主人公の行動には批判もあると思うが、しかし我が身を振り返っても思春期とはそういうもの。彼のその後の人生にも思いを馳せたい。
ニューシネマのリ・デザイン
マーゴット・ロビーが主演とプロデュースを兼任した2019年作品。恐慌下の1930年代テキサスを舞台にした『俺たちに明日はない』(67年)の再構築。ロビー演じる銀行強盗アリソンが、あの映画でフェイ・ダナウェイが演じたボニーにそっくり。それでいてお話の展開は『おもいでの夏』(71年/米)や『青い麦』(54年/仏)の系譜である「少年と年上の女性の初体験物語」。この古典的パターンのドッキングが面白い。
ハリウッドメジャーとインディペンデントを往還し、新鋭監督にチャンスを与える。ロビーは『スキャンダル』(19年)で共演したニコール・キッドマン先輩を良きロールモデルとして、しっかり後を追っているようだ。
"夢見る人"の抱く夢の鮮やかさが胸を打つ
17歳の少年の初めての恋を描く成長物語であり、宿命の女と出会ってしまった男のドラマでもあるが、それ以上に"夢見る人"の物語として胸を打つ。1930年代のテキサス、どこまでも乾いた大地が広がっていく世界で、"夢見る人"が夢を抱くとき、その光景が画角の違う画面で出現する。すると、その海の青さ、夕暮れの橙色が、現実とは別の鮮やかすぎる色をしているのだ。
撮影は『ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女』の映像が強烈だったライル・ヴィンセント。監督マイルズ・ジョリス=ペイラフィットは、95年にも映画化された英国コミック「タンク・ガール」の映画化を企画中で、それも気になる。