アバウト・タイム ~愛おしい時間について~ (2013):映画短評
アバウト・タイム ~愛おしい時間について~ (2013)ライター5人の平均評価: 4
ビル・ナイら「ヘンテコ家族」に泣き笑い。
これをタイムトラベルものと言いきるのは無理。あまりに設定が恣意的だしスキがありすぎ。むしろ「人生という持ち時間をよりよく使うには」のハウトゥ映画といっていいだろう。前半こそ “上手にできなかったセックスのやり直し”といったしょーもないことに「能力」を使う主人公が笑わせるが、次第に主軸は家族…とりわけ「父と息子」の物語へとシフト。人生何度もやり直せたって結局のところ幸福度はさして変わらんという「ちょっといい話」に収まるのがワーキング・タイトル流だ。しかし根本は裕福なインテリ一家の話であるから、「能力」がなくても生活にさほどの障害もなく、そこが物語の切迫性を弱めているのも確か。
藤子・F・不二雄先生の『未来の想い出』を想い出す
『ローマの休日』を基にした『ノッティングヒルの恋人』(脚本のみ)、キャプラ風のクリスマス映画『ラブ・アクチュアリー』など、オールドハリウッドを英国流に変換することに長けたリチャード・カーティスだが、今作はまるで藤子Fワールド! 特に『未来の想い出』(森田芳光の映画化は大幅アレンジ)と重なる部分多し。
日常ベースのSF(すこし不思議)な設定の中、「普段忘れがちな当たり前の幸福」に気づかせるため、微温性に徹する作風の親しみやすさもF先生的。だがこれは同時にカーティス的主題の究極でもある。
また「時間」を主役にすることで浮き出た諸行無常の抒情が秀逸。鉄拳のMUSEアニメ『振り子』にも通じるかも。
SFとしてではなく人情劇として評価すべし
タイムトラベルを題材にした作品というと、SFファンとしては設定の緻密さを求めたくなる。『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティス監督がSFを得意としているとは思えないが、作家性でそれを乗り切った。
軽妙なコメディ・センスと人情味。不器用な主人公や、ひょうひょうとしたその父親の描写に笑いをにじませながら、家族の絆の温かさでホロリとさせる。ここまで迷いなく自身の作風を貫いた点は評価されるべきだ。
タイムトラベルという題材に限って言えば後付のルールがいくつか見られ、SF映画として端正とは言い難い。とはいえ、この温かみに触れると、弱点に目をつぶりたくなるのも事実である。
"もしもこうだったらステキ"がぎっしり詰まってる
なにげない毎日に降り注いでいる光が、気がつけば、掛け替えのない美しさを持っている。この映画はそれをそっと教えてくれる。その光の美しさを捉えたカメラは、サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞した「今日、キミに会えたら」のジョン・ガレセリアン。あの映画で恋人たちに静かに降り注いでいた柔らかな光が、本作では恋人たちだけでなく、家族や友人、みんなに降り注ぐ。コーンウォールの海の見える家、ロンドンの地下鉄駅、夜の舗道、どこにでもある風景が、世界でいちばん素敵な場所に見えてくる。
主人公の父親役はリチャード・カーティス監督作の常連ビル・ナイ。50歳で引退、今は読書三昧のお茶目な人物をいつもように好演。
ドーナル・グリーソンの非モテ系男子っぷりに完敗!
特殊なDNAを持つ青年ティムが失敗を繰り返しながら人生で“真に大切なこと”を学んで行く展開は、一種のドラえもん。でもって欧米版のび太を演じるドーナル・グリーソンの非モテ系な外見と細部まで神経の行き届いた演技が物語を面白く、奥深いものにしている。イケメン俳優が演じたら嘘くさいだけの役柄も情けなさ全開のドーナルならば観客の共感を100%得られるのだ。英国男子の亜流といか、新機軸の主演スターの誕生だ! そんなティムの人生の師であり、最愛の友となる父親の存在がまた素晴らしい。飄々とした演技で場面をかっさらうのはビル・ナイ様のお約束だが、さりげない父子の会話から垣間見える愛情に鼻の奥がツンとなった。