マレフィセント (2014):映画短評
マレフィセント (2014)ライター5人の平均評価: 3.4
少々偏りすぎなディズニー流フェミ映画 ※微妙にネタバレあり
誰もが知る御伽噺「眠れる森の美女」を、虐げられた女の復讐劇として再構築した作品。「アナと雪の女王」に続くディズニー流フェミ映画とも位置づけられよう。
妖精マレフィセントが受けた仕打ちの数々は、そりゃ暗黒面へ堕ちても仕方あるまいと同情させるに十分だが、しかし侵略も戦争も策略も全ては権力欲に駆られた男のせいだと言わんばかりの趣旨には、時として女性の方が男性以上に強権的となりうる過去の歴史を考慮するといささか偏り過ぎにも感じる。
いや、そこは満面の笑みで本当にいいんですか!?と突っ込みたくなる父親形なしのエンディングにも疑問は拭えないが、ダークファンタジー色の濃厚なビジュアル面はなかなか秀逸。
「眠れる森のディズニー城」が悪の牙城に!【ネタバレ?】
チェックが回らなかったのか、「アナ雪」とほぼ同じオチにビックリだが、それほど今のディズニーの「真実の愛のキス」のあり方はこんな気分なんだろう。加えて、男性陣の地位の失墜も目に余る(笑)。王様は極悪人(またしてもS.コプリー!)、王子様は役立たず、カラスの化身(サム・ライリー)は二枚目だがただのパシリ。見事に頬骨の張った(アンジーの自前かと思ったが、特殊メイクの御大リック・ベイカーが強調してるのね)マレフィセントと、金子國義描くところの美少女そっくりな顔のラインを持つエル・ファニングの屈折した疑似母娘愛が耽美的かつダークに謳われる。でも姫君、ラストでそんなに満面の笑みを浮かべてていいの?
ノってる映画会社はやることちゃう
「眠れる森の美女」をただのリメイクで終わらせず、ダークサイドに堕ちた妖精の視点で大胆に解釈しているところにディズニーの勢いを感じる。邪悪な呪いをかけたマレフィセントに、贖罪の気持ちと真実の愛まで芽生えさせてしまうのだ。オリジナルの魔女はきっと、「あたしゃ、そんな良い人なんてなりたかないよッ!」と毒づいているかもしれないが、そんなもんディズニーの魔法で黙らせちゃってよ。
他、争うことの不毛さなど、かなり道徳的な要素が強くなったが、そこにアンジー姐さんら作り手が本作に挑んだ矜持を感じるのも確か。芸達者な俳優を配した端役に至るまで、たかだ娯楽でも手を抜かないプロの仕事をたっぷり堪能出来るだろう。
おとぎ話がねじ曲げた真実がここに!
おとぎ話の世界を具現化した映像美もため息ものの美しさだが、「眠り姫」の悪役をアンジェリーナ・ジョリーに演じさせたのが成功の鍵だ。女王然とした威厳の陰に母性愛といたずらっ子めいたウィットを隠しているマレフィセントはアンジー本人に近そうだし、生き生きと楽しそうに演じているのも好感度大。おとぎ話を別の角度から見直す手法は新しくはないが、本作が素晴らしいのは“真実の愛”の解釈。もうね、世の女性は白馬の王子なんていないと気づいているわけ。ましてや初対面の男のキスで愛に覚醒なんてありえないし……。おとぎ話がねじ曲げていた真実を女性予備軍の少女に伝えるというプチ・フェミ映画としても価値アリ。
アンジーのマレフィセント顔が全てを征服する
「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」でアイパッチ姿のカッコよさにシビれ、「ベオウルフ/呪われし勇者」で長い尻尾があまりに似合うのに賛嘆して以来、ああ、アンジェリーナ・ジョリーには社会派ドラマよりもファンタジー系悪役キャラが似合うのに、と密かに思っていたファンは多いはず。そんなファン待望の1作がこれ。曲がったツノ、尖った頬骨、黒い衣のアンジーは、問答無用の美しさ。
そんな彼女の前では、物語すら彼女を魅力的に見せようと変形して、彼女に奉仕する。アニメではオーロラ姫に歌われた主題歌も、本作ではラナ・デル・レイに歌われて、マレフィセント自身の歌に変貌してみせるのだ。