マップ・トゥ・ザ・スターズ (2014):映画短評
マップ・トゥ・ザ・スターズ (2014)ライター5人の平均評価: 4
意外にも初のハリウッド・ロケ作だが…(笑)。
J.ムーアとM.ワシコウスカ。現代きってのクセ者監督御用達女優を揃えただけで想像がつくように、マトモな社会通念・倫理観を持った人物がひとりとして出てこないという意味では充分にぶっ壊れたクローネンバーグ映画。ゆえに展開も根本的に狂っているが(いろんな意味で)、近年では最もエンタメ性が高く、と同時に異端の実験ホラーともいうべき初期作のテイストにも近い。とりわけムーアはこの演技でカンヌの主演女優賞獲得かと思うとオソロしさを増すね。ご本人登場のC.フィッシャーにとどまらずセレブの実名やトリヴィアをバンバン出しつつ、ハリウッド・バビロンの昔から連綿と続く映画の都の裏面を露悪的に描いた地獄の人間喜劇だ。
シリアス過剰でグロテスク、そこがイイ!
先ごろ発表されたゴールデングローブ賞のノミネートでオッ!?と思ったのは、本作が<コメディ/ミュージカル部門>にカテゴライズされていること。鬼才デビッド・クローネンバーグの新作が賞レースでこのように受け止められた事実は、ある意味痛快だ。
セレブの内幕を暴くこと自体、目新しくはないが、クローネンバーグが描くとキャラクターのえげつなさはグロテスクにきらめく。それはもはや見上げるスターではなく、こうはなりたくない見本。その毒気にこそコメディ・センスが宿る。
豪華キャストの中でも、女優賞の対象となったジュリアン・ムーアの怪演は圧巻。この人が出てくるだけで次第にニヤつきが大きくなる。
クローネンバーグ流のハリウッド残酷物語
欲望渦巻くハリウッドの裏側と有名人一家のドロドロとした愛憎劇を通じ、現代セレブ文化の病巣に切り込んだクローネンバーグ最新作。同監督にしてはやけに通俗的では…?と感じる向きもあるかもしれないが、しかし時に悪意すら漂うシニカルな目線、モヤモヤとした生理的な居心地の悪さは、紛れもないクローネンバーグ印。下世話という意味において、「シーバース」や「ラビッド」の頃の感触に近いかもしれない。
特筆すべきは、情緒不安定な落ち目の映画女優を演じるジュリアン・ムーア。全裸のヘア丸出しでレズるわ、トイレでパンツ下げてオナラをブーブーかますわ、そりゃもう恐れ入るばかりの体当たり演技で他を圧倒する。
やっぱりハリウッドはバビロンじゃないと、ね
ハリウッドの黄金時代が遥かに遠くなった今でも、私たち観客は無意識のうちに、スクリーン上の世界が輝かしいほど、その裏には薄暗くいかがわしい秘密があってほしいと願っている。クローネンバーグ監督は、本作でその密かな願望を暴いてみせる。本作の現代ハリウッドは、表面は清潔で明るくラッピングされているが、その裏にはケネス・アンガーの実録本「ハリウッド・バビロン」の1920〜60年代のハリウッドと同じ、母娘の確執、近親相姦、怪しい医療等々が蔓延している。だからこそ、スクリーンの上にも外にも、魅惑的なゴーストたちが出現する。そしてエンドロールでは、あまたの"星"たちが夢のようにぼんやりと輝くのだ。
ハリウッドだからありでしょ、なソープ・オペラ的人生模様
ハリウッド風刺劇とセレブ家族のカオスから浮かび上がる恐ろしい秘密が面白くないわけがない! 老いを恐れるビッチ女優や生意気な子役とステージママ、嘘っぽさ満点の自己啓発グルとクリシェなキャラが繰り広げるドラマはエキセントリックかつクレイジーで、まさに昼メロの世界だ。特にすごいのが秘密を異様な形で再現しようとするヒロイン、アガサ。クローネンバ―グ監督のオリジナル脚本だったら、彼女の心の闇に焦点を当てたはず。地味な外見と腹に一物秘めていそうなまなざしのギャップが怖いミア・ワシコウスカの独特な存在感が効いている。それにしてもツイッターで知り合っただけの女性を信用するキャリー・フィッシャーはダメだな。