ホーンズ 容疑者と告白の角 (2013):映画短評
ホーンズ 容疑者と告白の角 (2013)ライター5人の平均評価: 3.6
ローラーガール、まだまだ健在!
冒頭にデヴィッド・ボウイの「Heroes」が流れるように、ある日突然、角を得た主人公は愛する女性の死の真相を探るため、ヒーローと化す。彼のモノローグにより、独自調査を進める展開はハードボイルドだが、角パワーで彼に暴露する周囲の人々の本音はなぜか下ネタばかりということで、アジャ監督の本領発揮。美しき死体は「ツインピークス」のオマージュとも取れるが、ただ話を引っ掻き回すだけのウェイトレス役でヘザー・グラハム登場。ローラーガールだった『ブギーナイツ』から15年、ジュリアン・ムーアが三大映画祭&オスカー女優になった今、相変わらずの美貌でまだまだこんな役を演っててくれるのはうれしくもアリ、悲しくもアリ。
人は誰しも心に悪魔を宿す
恋人殺しの容疑をかけられた若者の頭に、ある日突然2本の角が生える。その角を見た人間はなぜか口々に本音を喋り始め、主人公はこの不思議な力を使って真犯人を探し始める。
嫉妬や傲慢、色欲などなど。人々が告白する本音は“七つの大罪”のオンパレードだ。人間なら誰しも心の中に悪魔を宿す。その秘めたる心の声を、悪魔の象徴たる角が引き出していく。そこが物語を読み解く重要な鍵だと言えよう。
同時に、本作は大人になることで無垢な友達ではいられなくなった、幼なじみグループの悲哀をも浮き彫りにしていく。宗教色の強さゆえに分かりづらい部分もあるかもしれないが、なかなか示唆に富んだ寓話的ダークファンタジーの秀作だ。
グランジ世代の病めるハリー・ポッター
ホラー監督と思われたアレクサンドル・アジャが、 こんなにも繊細なスリラーを撮れるとは嬉しい驚き。角やら蛇やらが飛び出す苛烈なビジュアルの魅力も健在だが、評価すべきはドラマの面白さだ。
最悪の状況追い込まれた主人公は周囲が“クソッたれ”にしか見えず、毒づきの連発。最愛の人を失った悲しみもぬぐえない。“告白の角”という奇抜なアイデアもさることながら、20代でドン詰まりのヤケクソ感に宿るグランジ的リアリティも秀逸。
ダニエル・ラドクリフも素晴らしく脱ハリポタというよりは“昔ハリポタだった俺”を引き受けているよう。ハリポタ好きにオススメできるアジャ作品が見られる日が来るとは思わなかった。
ホラー・ファンタジー版『スタンド・バイ・ミー』、かな?
恋人メリン殺害容疑がかかる青年イグにある日、角が生えた! カフカの『変身』みたいだけど、角の持つパワーが笑える。なんと、誰もがイグに本音を告解したくなるのだ。イグが知りたくない真実まで聞かされる展開がコミカルで、エキセントリックなホラー映像に定評あるアジャ監督の新境地? メリンを崇める80年代ミュージック・ビデオ的な映像も同様なり。いわゆる善と悪、救済と天罰についての映画だがラブコメ仕立てなのがユニークだ。また侘び寂び感もたっぷり。回想シーンのイグと仲間たちが『スタンド・バイ・ミー』を思わせるが、成長するとほのぼの感ゼロ。固い絆で結ばれた友情も一瞬にして崩壊すると思わせる儚さが切ない。
意外なことにラドクリフは獣の角が似合う
ダニエル・ラドクリフは、獣の角がよく似合う。ギリシャ神話のサチュロスの角をイメージしたという監督の趣向に頷きつつ、獣の角が生えてしまった主人公の苦悩の物語を期待すると、そこは違って、本筋は主人公の恋人の死の真相を探る謎解きもの。そこに子供時代からの友人達、兄弟、小さな地域社会が絡んでスティーヴン・キングを連想させるが、なるほど原作はその息子ジョー・ヒルで、製作総指揮にも参加。撮影は「ブルー・ベルベット」「ワイルド・アット・ハート」のフレデリック・エルムズ。ヘザー・グレアムが「ツイン・ピークス」風ダイナーのウエイトレス役で同作と同じ容姿で登場。こんな選択からも監督が目指した世界が伝わってくる。