チャイルド44 森に消えた子供たち (2014):映画短評
チャイルド44 森に消えた子供たち (2014)ライター4人の平均評価: 3.5
ミステリ色より収容所列島時代の愛の変遷。
いくらソ連ものだからって、T.ハーディのロシア語訛りな英語台詞はヤリ過ぎだと思うが、それも次第に慣れてくるし、間断なく推進されるストーリーテリングがかなり巧み。この場合、大部な原作のどこに焦点を当てるのかが問題となるが、チカチーロをはっきり想起させる連続殺人の酸鼻な実態よりも、その因子となったホロドモールとスターリニズムの恐怖をクローズアップしたのが歴史劇としての重厚さを加えて正解。だからといってエンタテインメント性が失われることはなく、G.オールドマンはもとより、『ロボコップ』や『ラン・オールナイト』で頭角を現すG.キナマンをコンプレックスの権化となった悪役で器用するセンスがまたいい。
肝心な点が省かれたので原作ファンは怒るかも
スターリン政権下のソ連で“連続殺人は資本主義の弊害”という考え方が蔓延していたのは滑稽だが、当事者にとっては恐ろしいことだ。建前優先によって殺人者が野放しにされた、そんな国家の黒歴史にメスを入れたのが原作者トム・ロブ・スミスだ。「このミス」2009年版の1位に輝いた原作をより政治色の濃いドラマに仕立てたのが興味深い。ただミステリーとしては物足りず、理由はやはりカニバリズムを誘発したウクライナ大飢饉と主人公レオの生い立ちに触れなかったせい。物語が浪花節っぽくなるのを避けるためだろうが、ドラマ性が激減。トム・ハーディーら出演陣のロシア語訛りの英語にも違和感があり、省く部分を監督が間違えたね。
連続殺人鬼よりも恐ろしい独裁国家の闇
あのチカチーロ事件をモデルに、スターリン政権下のソビエトで起きた連続猟奇殺人事件の謎解きを通じ、独裁国家の腐敗と偽善を暴くミステリー。
犯罪や貧困は堕落した西側諸国の産物であり、健全な社会主義国には存在しない。ブレジネフ政権下のモスクワで育った筆者もまた、そんな共産党政府の建前をよく耳にしたものだ。ゆえに、連続殺人の真相を追う主人公は政府高官から危険分子扱いされ、地方へ左遷されたばかりか、夫婦揃って命まで狙われる。
ロシア語訛りの英語のセリフは違和感が拭えないものの、全編にほとばしる抜き差しならない緊張感は圧倒的。このところ主演作にハズレなしのトム・ハーディの演技にも気迫が漲る。
まずはミステリー映画の先入観を捨てよ
『マッドマックス~』等の相次ぐ主演作の公開で今夏はトム・ハーディ祭の様相を呈しているが、その一旦を担う本作。ベストセラー小説の映画化ということもありハードルは上がるが、ミステリーを期待すると肩透かしを食うかもしれない。
殺人捜査が国策により妨げられたとき、捜査官という一個人が何を感じ、どう動くのか。本作の重力はそこにあり、曇天や鉄道のダークなビジュアルによって強調される旧ソ連の閉塞的な空気が主人公の足かせとして機能。不自由な社会での忍耐を体現したハーディの抑えた演技も光る。
前半はほとんどサスペンスが機能せず、ミステリーとしては少々キツい。社会派の人間ドラマとして見るのが吉。