コードネーム U.N.C.L.E. (2015):映画短評
コードネーム U.N.C.L.E. (2015)ライター7人の平均評価: 3.7
ヒロインの趣味も大変によろしい。
スパイ映画ネオ・ルネッサンスといっていい’15年だが、本作はあえてオリジナルそのまま冷戦時代を舞台にしたのが成功の要因か。ただしTV版とはほぼ別物。「シャーロック・ホームズ」シリーズと同じく、少しゲイ的な香りを漂わせながらも(ソロとクリヤキンのキャラがどちらもマッチョって…)アレほどあからさまでなく、G.リッチー的にはやはり時代物よりは肌が合うようでアクションもスマートでキレがいい。さらに’60年代ポップへのこだわりが半端なく、とりわけイタリアが舞台になってからはファッションは勿論、マカロニからヒロシのテーマ(笑)まで音的にも偏愛が迸る。『10億ドルの頭脳』なエンドタイトルにもニヤリ。
レトロ感を徹底的に重視した諜報ファンタジー
スパイ・アクションはいい加減飽和状態かなあと思いきや、ガイ・リッチーは意外な線で攻めてきた。懐かしいナポレオン・ソロを、現代に舞台に置きかえず、そのままの設定で映画化してみせる。
諜報活動の場は風光明媚な地で、ファッションは原色主体。ポップでファッショナブルに徹したビジュアルは1960年代スウィンギン・ロンドンの萌芽のようにも映る。もちろん現代のエンタメ作品らしく、展開はアップテンポだ。
盗聴器などのガジェットも奇想天外というより、むしろアナクロ。ネットもスマホもない時代の諜報ファンタジーとして大いに楽しめる。シャーロック・ホームズを時代劇のまま現代に甦らせたリッチーの面目躍如!
『キングスマン』発。加速するコミカル×粋なスパイ映画ブーム!
『キングスマン』が投げかけた、『007』や『Mi』シリーズに対するスパイ映画のアンチテーゼが、本作でより一層加速しそうだ。それは「シリアス×汗」を否定し「コミカル×粋」を志向すること。TVドラマ『0011ナポレオン・ソロ』の舞台を現代に置き換えることなく60年代のままにすることで、米ソが共闘する格調高き時代劇ファンタジーの趣きが生まれた。ヘンリー・カビル×アーミー・ハマーのバディものでもあるが、彼らのキャラが被るのは玉に瑕。上司にヒュー・グラントを持ってくるセンスで、大目に観ようか。ハスキーボイスでツンデレに徹する北欧出身ヒロイン、アリシア・ヴィキャンデルの存在感が次第に大きくなっていく。
快調なテンポで最後までひっぱる演出が小気味いい。
オリジナル版の記憶うっすらなので新鮮な気持ちで見たら、冒頭のカーチェイスからずっと快調なテンポで飛ばすガイ・リッチー監督の演出が小気味いい。60年代ファッションやレトロなスパイグッズも楽しいし、舞台を現代に置き換えなかったのも正解だ。ヘンリー・カヴィルがジゴロっぽく、アーミー・ハマーがロシア人に見えないのが難点だが、シリアスじゃない物語に見事ニマッチ! 悪女がパリス・ヒルトンにしか見えず、「いつの間にこんなに演技が上手になったんだ!?」と驚愕したけど、正体はエリザベス・デビッキ。ヒロインよりも彼女に目を奪われた。『エベレスト』で演じた役とも大違いで、カメレオン役者の今後に期待したい。
60年代ユーロスパイ・アクションのファンなら必見!
60年代の伝説的ドラマ『0011ナポレオン・ソロ』の映画リメイクということで、ファンとしては期待より不安の方が高かったが、蓋を開ければなんという面白さ!
オリジナルの要素を継承しつつも、ノリは筆者の大好きな60年代ユーロスパイ・アクション寄り。お洒落でクールでエレガントで理屈抜きに楽しい。60’sカルチャーやファッションの再現も実に見事で、まるでイタリア産077シリーズや英国産ブルドッグ・ドラモンド・シリーズをバージョンアップした感じだ。
ヨーロッパ色濃厚な音楽も最高。ハードなアクションシーンに甘美な『ガラスの部屋』の主題歌(ヒロシのやつ)をたっぷり流しちゃうセンスにはマジで悶絶です。
「ナポレオン・ソロ」好きには響きます
『シャーロック・ホームズ』の流れで「0011ナポレオン・ソロ」をリメイクという狙いは悪くなく、ガイ・リッチーが『ロックンローラ』以来、脚本を手がけていることで、ウィットに富んだ会話も展開。しかも、上司ウェーバリーにヒュー・グラントを配する遊び心など、オリジナルのファンなら十分楽しめる「エピソード0」。とはいえ、近年のスパイ・アクションを見慣れていると、設定を除き、あまり目新しさを感じさせない恐れも…。また、オリジナルでは中性的な魅力を放ったクリヤキンが、アゴまで完コピしたようなソロとキャラ被りのマッチョ系なのはいかがなものか。ということで、残念ながらアーミー・ハマーはミスキャストです。
スパイ映画はオシャレでなくちゃ、とガイ・リッチーが宣言!
オシャレで軽やか。とくに音楽、衣装と会話。すべて舞台となった60年代のテイストで統一されて、音楽はフルートが跳ねるジャズ風味、色彩は明るく、男性はサヴィル・ロウ仕立ての洗練された紳士服、女性はクレージュなど60年代の高級ブランド風の華やかなファッションで、交わす会話も粋。思い起こせば、監督・共同脚本のガイ・リッチーは、かつて「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」と「スナッチ」の監督と脚本を担当した人だった。あの頃のガイ・リッチー映画のリズムで物語を語っていく感覚が、ちょっとだけ復活。やっぱりスパイ映画はオシャレでなくちゃーーそんなガイ・リッチーの声が聞こえてくるようだ。