捨てがたき人々 (2012):映画短評
捨てがたき人々 (2012)ライター3人の平均評価: 3.3
覚悟のR18+
俳優が監督であるという信頼感からだろう。ジョージ秋山の原作に負けじと俳優陣が潔く身も心もさらけ出す。゛映画でしか出来ないこと゛に挑もうとする志が見えるかのようだ。ただ原作の魅力である、宗教の教えと人間の本能を対比して描く奥深さを軽減したのは残念だが、人間の動物的な姿を強調することで、所詮心の底で考えているのは「金と食べ物とセックス」という人間のどーしようもなさがダイレクトに伝わってくる。
娯楽作の多かった榊監督のターニングポイントとなることは間違いないが、大森南朋のやさぐれぶりが久々に見られたのも嬉しい。やはり彼は、狂気ある役でこそ色気が出る稀有な俳優である。
ロマンポルノ的な「役者の映画」の熱作
ジョージ秋山のボリューミーな後期傑作(97~99年発表)をいかに映画化するか――との難題に挑み、原作者の息子・秋山命は自問自答的な彷徨を核とするシンプルな脚本に削ぎ落とした。そのおかげで「役者の映画」としての強度に集中し得ている。
原作の主人公は『おんなの細道 濡れた海峡』の三上寛みたいな容貌だが、しかし大森南朋×三輪ひとみは魂の格闘こそを浮上させる。そして美保純の起用という秋山原作『ピンクのカーテン』へのオマージュもあり、ロマンポルノの正統的後継と言える一本になった。
監督・榊英雄は自らの出身地・五島列島を舞台に選び、私的ルーツ探究と宗教的寓話性を同時に付与した。間違いなく彼の代表作だ。
懊悩する下衆は性質が悪い。
惰性で生き、惰性でセックスする、どうしようもない空虚さに囚われた主人公がレゾンデートルをこれみよがしに呟いてみせるのに辟易。いや、作者はそんな「空っぽさ」をこそ描こうとしているだろうが、対立項としての「罪と罰」やキリスト教的無償の愛がクリシェの範疇でしか扱われないので、単に下衆な破滅指向の男としか映らず、とてもそんなマッチョイズムには付き合ってられませんというのが正直なところ。ただそんなクズにこそのめりこむ女性というのも確かにいるわけで、その点で三輪ひとみ、美保純(ジョージ秋山=『ピンクのカーテン』という連想は嬉しい)、それに内田慈の肉体性はとてもリアルだ。…はい、私も下衆ですから。