銀の匙 Silver Spoon (2013):映画短評
銀の匙 Silver Spoon (2013)ライター3人の平均評価: 5
とってもいい映画。
「普通の映画」の顔をしながら、凡百の社会派映画よりどれだけ現代日本を覆う問題、大切なメッセージを含んでいることか! むろん荒川弘の傑作漫画あってこそだが、再構築が巧く、酪農のハードさをドキュメント的に実写化することで本物の説得力を手に入れた。
吉田恵輔監督としては広瀬アリスの胸チラなど作家性(変態汁)を適度に分泌しつつ、自己実現をテーマとした点で『ばしゃ馬~』『麦子さんと』とコレは三部作に思える。最初お先真っ暗な感じで登場するSexy Zoneの中島健人がどんどん「いい男」に輝いていく過程は感動的だ。
筆者がTOHOシネマズ渋谷で観た時、客席はほぼ女子だったが、むしろ悩める男子に薦めたい!
現代の競争社会に縛られない生き方を見つける爽やかな青春映画
受験に失敗した進学校の落ちこぼれ生徒が、気まぐれで入学した農業高校で図らずも将来の夢と希望を見出し、やがて少しずつ自立心に目覚めていく。北海道の雄大な自然を背景に、心温まる人間模様と絶妙なユーモアを散りばめた青春映画だ。
その一方で、むちゃくちゃハードな酪農作業の厳しい現実、そして日本の農業が直面する深刻な問題からも目を逸らさず、それでもなお現代の競争社会に縛られないマイペースな生き方を提唱する脚本は非常に好感が持てる。中島健人ら若手俳優たちの素直で自然な演技を引き出した吉田監督の演出も手堅い。
原作コミックもアニメも未見なので比べることはできないが、なんとも爽やかで愛おしい作品である。
吉田恵輔がまたやった!
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』を完成させたことで、自身の過去と決別した感がある吉田恵輔監督が、人気原作の映画化という賭けに出た! そして、アニメ化もされている原作のファンを大切にしつつ、俳優のリアクションなど、決してアニメっぽい演出をしないという難易度の高いハードルを掲げ、見事な青春群像劇に仕上げた。
しかも、関ジャニ安田に続き、セクゾ中島健人をしっかり俳優に化けさせただけでなく、彼が演じる主人公・八軒の中学時代のヘビイな描写や、『ばしゃ馬~』のアブねぇおばさんの再登場など、痛さ全開の吉田テイストもブッ込み、しっかり爪痕を残している。日本映画界はこの事実を高く評価すべきだ!