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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 (2013):映画短評

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 (2013)

2014年5月30日公開 104分

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
Photo by Alison Rosa (C) 2012 Long Strange Trip LLC

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

音楽史の裏街道で消えていった無名アーティストたちへ捧げる挽歌

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 フォークシンガーとして有り余る才能を持ちながらも、音楽に対するこだわりの強さゆえにトレンドや商業主義と相容れず、高過ぎるプライドゆえに家族や仲間をも遠ざけてしまう主人公ルーウィン。何をやっても裏目に出てばかりだが、その多くは自業自得だ。
 浮き沈みの激しい音楽業界にあって、頑固で偏屈で不器用なルーウィンに成功の女神は決して振り向かない。コーエン兄弟は60年代NYのフォークシーンを独特の荒涼とした映像美で再現しつつ、あてどなく街を彷徨う負け犬の日常を淡々と映し出す。これは、音楽史の裏街道で人知れず消えていった、大勢の無名アーティストたちへ捧げる挽歌のようなもの。ルーウィンはその象徴なのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

才能は世間に認められてこそで、俺基準は切ないよ。

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

歌唱力や演技力、色彩感覚といった芸術的才能は数値では表せない。でもそれが影響力を持つ第三者に認められた途端に価値がつき、金銭というわかりやすい数字で判断される。この映画は世間に才能を認めさせようと必死にあえぐシンガーを主人公に据え、彼の涙ぐましいダメダメ人生をリアルに切り取る。宿無しで、女性を妊娠させて大慌てし、日銭欲しさにヒット曲の印税を逃し、音楽にこだわるあまり時代の波にも乗り遅れ……。人生vs俺の結果はこてんぱん。次に何が起こるのかわからない展開はコーエン兄弟らしいのだが、見終わったときの切なさたるや。オスカ―・アイザック演じるルーウィンの歌が魂の叫びっぽく心に沁みるからなおさらね。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

ディランになれなかった才能たちへのレクイエム

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ボブ・ディラン前夜、ニューヨークのフォーク・ミュージック黎明期を題材にした映画だが、見るうえで音楽的な知識は必要ない。根幹をなすのは、夢を抱きながらもかなえられない人間のドラマだから。

 売れない、認められない、女性との付き合いも猫探しもうまくいかない……すべてにドン詰まった主人公のフォーク歌手の姿に、己を重ねることは難しくない。ユーモアと愛情を込めたコーエン兄弟の描写はリアリティを確かに感じさせる。

 音楽が魅力を放つ点も見逃せない。主人公には確かに才能があった。が、才能が報われるには機会に恵まれなければならない。多くの埋もれた才能の現実が、ここにもみてとれる。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

ネコ映画の歴史にも残るでしょう。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

正直コーエン兄弟は大の苦手だが、この系統は別。『オー・ブラザー!』の流れにある、アメリカのルーツ・ミュージック探索の旅映画だ。オスカー・アイザック、キャリー・マリガンはじめ、出演者全員歌えて弾けて、しかもそのレヴェルの高さは尋常ではない。ことにジャスティン・ティンバーレイクとアダム・ドライヴァーによる”Please Mr. Kennedy”の完成度は凄い。でも実は音楽と並んで…いやそれ以上に好ましいのが、アパートの廊下を尻尾をピンと立てて歩く茶トラの名演! 映画の終盤に判明するのだが彼の名は「ユリシーズ」、つまり『オー・ブラザー!』が原作とうそぶいた『オデュッセイア』の英語形なのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

ブルース映画『ブラック・スネーク・モーン』とJTつながりで

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『オー・ブラザー!』を引き継ぐコーエン兄弟(監督)&T・ボーン・バーネット(音楽)の最強タッグと、主演のO・アイザックに賛辞は集中しているが、筆者はジャスティン・ティンバーレイク推し! ポール・クレイトンをモデルにしたフォーク歌手として「プリーズ・ミスター・ケネディ」なるオリジナルのノベルティソングも披露。映画に技術と華を添えている。

むろん文化史の一断面を切り取った負け犬系青春映画としても最高だ。「時代は変る」その一瞬に浮上する立役者と「じゃない方」の悲哀。デイヴ・ヴァン・ロンクの傑作回想録『グリニッチ・ヴィレッジにフォークが響いていた頃』(早川書房)の第12章「衛兵交代」も参照されたし。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

静かな可笑しさが沁み込んでくる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 コーエン兄弟流の、ちょっと独特な笑いを含んだ、ある種の神話的な物語。それが、モノクロに近い落ち着いた色調と、アコースティックなギターの音色と肉声で語られていく。静かにゆっくり沁み込んでくる。

 61年NYのフォーク・シーンが背景で、登場人物たちの原型となったフォークシンガーはいるが、歴史映画や伝記映画ではない。彼らの作品でいうと「バートン・フィンク」「オー・ブラザー!」「シリアスマン」の系譜。主人公は、寒い街を、どことも知れない田舎のただっ広い雪原を、歩いていく。

 撮影はソクーロフの「ファウスト」のブリュノ・デルボネル。映像のざらついた質感は、主人公の古びたマフラーの手触りだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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