海街diary (2015):映画短評
海街diary (2015)ライター7人の平均評価: 4.1
本当に広瀬すずという女の子が居てくれてよかった。
鎌倉の風通しのいい風景に、どこか斎藤一郎のようなメロディアスな音楽(菅野よう子!)が重なると、どうしても小津安二郎を想起するのは仕方ないことで、実際、メロドラマ全盛期の松竹映画の模倣に過ぎない作品ではある。ただ、チェーホフ…というか、谷崎の「細雪」のように四姉妹のキャラクターがくっきり色分けされ、いつになく明快な演出が成されているので、僕のような是枝アレルギー(少数の作品を除き“作為的な自然主義”に辟易する)でも素直に観られるのは事実。それはひとえに、いつ姉たちに後足で砂をかけるのかとドキドキさせながらも見事に裏切り(笑)、呆れるような純情無垢を体現して爽やか極まる広瀬すずの存在あればこそだ。
ささやかな日常の積み重ねで描かれる四姉妹それぞれの想い
鎌倉の古い日本家屋で暮らす四姉妹の姿を、四季折々の美しい風景を織り交ぜながら情感豊かに描いていく。
何か特別大きな事件が起きるわけではない。ささやかな日常の積み重ねの中に、姉妹だけで肩を寄せ合って生きる彼女たちの様々な想いや迷い、そして覚悟が浮かび上がる。おのずと小津映画を彷彿とさせるわけだが、中でもそれを強く感じさせるのはヒロインたちの柔らかくも凛とした佇まいだ。
綾瀬はるか演じるしっかり者の長女はまさしく原節子だし、自由奔放で気の強い次女・長澤まさみはさしずめ岡田茉莉子か。それぞれの女優が実に表情豊かで魅力的。このままずっと彼女たちの毎日を見守りたい、思わずそんな気にさせられる。
作家性を究め商業性も担保する、女優4人の奇蹟のアンサンブル
鎌倉の古い日本家屋の匂いに居住まいを正しながら、四姉妹の立ち居振る舞いに眼を奪われた。父も母も不在の家庭で、それぞれの居場所を求め、屈折しバラバラになってもおかしくない個性を、代々の営みを刻む「家」が守護し、繋ぎとめるのだ。次第に、強くしなやかな家族になっていく様が清々しい。四季折々の風景の中で生きる4人のアンサンブルが奇蹟的。とりわけ、未完の大器・広瀬すずの自然な表情の変化には驚かされる。是枝裕和監督は作家性を遺憾なく発揮させつつも、アート系のタコツボに陥らず、旬な女優を輝かせて興収を約束するテレビ局出資映画としての商業性も見事に担保している。
ホームドラマのスタイルを借りた優れた“歴史劇”
これはホームドラマのスタイルを借りた滋味深い“歴史劇”だ。表面はシンプルな日常劇に見えるが、底を掘るとまさしく海街のdiary、ゆるやかに動いてゆく諸行無常の“時のドラマ”が浮かびあがってくる。当然、小津安二郎の世界と接近するものの、吉田秋生の原作漫画は「四姉妹もの」の変形でもあり、母違いの妹が触媒となって四人四様、封印していた父への思いが波立つ。
つまり原作もそうなのだが、ホームドラマに革命を起こした山田太一、向田邦子の方法論を、是枝監督が血肉化した成果である。有機的に物語を起動させる数々の食の扱い、誰かと二人っきりになると四姉妹に思わず本音がこぼれる、という法則性(企み)に注目したい。
シンクロする『海街Diary』と『あん』の世界観
期せずしてドキュメンタリー出身の是枝裕和監督と河瀬直美監督が共に原作モノでカンヌに選出された。いずれも特定の地域を舞台に、季節を重んじ、日常の中での心の移ろいや秘めていた感情を丁寧に拾いあげていく。カリカチュアされたキャラクターによる分かりやすい話が主流になっていた日本映画の悪しき流れを変えてるのではないか。そんな期待すら抱かせてくれる堂々とした作品だ。
一方で著名俳優を起用した大作とあって、両監督の味が軽減されているのも確か。特に是枝監督は前作『そして父になる』で主人公のドSぶりが炸裂していただけに余計にさらりとした印象だ。それも両監督が年を重ねて円熟味を増したゆえ…と解釈したい。
間違いなくキャスティングの勝利。
『そして父になる』に続く是枝作品ということで、自然とハードルは高くなってしまうが、現代版「細雪」な原作なので、ドラマティックな展開を期待してはいけない。タイトル通り、海街=鎌倉に住む四姉妹の日常が、移りゆく四季とともに淡々と描かれていく。つまり、四姉妹を演じる女優の魅力がどれだけ引き出されているか、が評価に繋がるといえるが、不倫から逃れられないマジメな長女、男運&酒癖の悪いエロキャラの次女、どこか破天荒キャラな三女、そして誰よりもしっかり者な四女と、誰一人違和感なく、愛おしくも感じさせる。それにしても、アフロなスポーツ店店長にレキシ(池田貴史名義)を持ってきたあたりは見事としかいえない。
女3人だと姦しいけど、4人だとたおやかだね!
綾瀬はるかを長女とする三姉妹が母親違いの妹を引き取るところから事態が急変するかと思いきや、非常に淡々と進む。身勝手な母親が登場しても日常生活は変わらず、でも各人がそれなりの思いを抱えているのが伝わってくる。妙な仕掛けを作らない、自然な流れがとても好ましい。姉妹のキャラもバランスが取れていて、愛らしく控えめな四女が家族としての居場所を見つけるのにも無理なし。ビリギャルみたいなJKでなくてよかった。女3人寄ると姦しいけど、4人だと美しくたおやかということかも。舞台が鎌倉、しかも平凡な家族の物語。四季を感じさせる撮影だし、食事シーンは多いしで、小津安二郎監督へのオマージュを感じた。