JIMI:栄光への軌跡 (2013):映画短評
JIMI:栄光への軌跡 (2013)ライター4人の平均評価: 3.5
夢のために何を捨てたか!? 天才と呼ばれるまでの道
ロック史上もっとも革命的なギタリストと言われている故ジミ・ヘンドリクス。本作は、その才能をクローズアップした作品というより、それを開花させた姿勢を描く伝記劇だ。
ブレイクする以前のジミが3人の女性に導かれて脚光を浴びるまでの物語。故郷、恋人、人種など、彼女たちとの交流の中で、ジミが何を捨ててきたのか? そこにフォーカスしつつ、迷いなく進んだ強さ(というか、若さ)からドラマの軸がブレることはない。
主演のアンドレ・ベンジャミンは仕草も表情もギタープレイもジミになりきっており、そういう点でも見どころがある。ジミをカリスマ視していない初心者にも興味深く見られるはずだ。
ミュージシャンを支えるのがグルーピーの正しいあり方!
個性的な顔立ちのアンドレ3000がジミヘンを熱演し、歌唱力もばっちり。彼のシグニチャーであるミリタリージャケットとの出会いなんて細部も描かれ、「ほぉ、そうであったのか」感満載。でもいちばん印象に残ったのがジミヘンをジミヘンたらしめた人気モデル、リンダ・キースの存在。NYの片隅で埋もれていた才能を発掘し、デビューさせる彼女のガッツが音楽界に奇跡をもたらしたといってもいいほど。愛する音楽とミュージシャンのために奔走する姿はまさにグルーピーの鑑であり、後に彼に影響を与えるグルーピーと一線を画する。女無しでいられない体質のジミの成功を支えたグルーピーの物語としても興味深い作品だ。
彼にとって音楽とは何か、というひとつの仮説
音楽は、あえて封印されている。ミュージシャンを描く映画なのに、本作は音楽によって見る者を陶酔させようとはしない。それは、オリジナル音源の使用が権利者に許可されなかったからだけではなく、本作が、このミュージシャンとして有名な人物を、ひとりの人間として描こうとしたからだろう。だから、彼のインタビューを再現する形で彼が語った言葉が描かれ、彼がどんな人々と出会い、どう行動したのかが描かれる。そして、ミュージシャンとしての彼を決定的に有名にしたライブの直前で映画は終わり、見る者を唖然とさせるのだが、気づけば、本作の主人公は、そのライブの前に、すでに音楽によって自由になる方法を手に入れているのだ。
知られざる“等身大”なジミヘンの再現!
これは渋い! ジミヘンの伝記映画といってもモンタレーの前まで……言わばブレイク前夜の話なので「大ネタ」の再現は基本ナシ。その意味では地味な仕上がりかもしれないが、既存のドキュメンタリーを補完するような丁寧な作りにびっくりした。
ジミヘンに扮するという難易度の超高い役に挑戦したOUTKASTのアンドレ・ベンジャミンには手が痛くなるほど拍手。実際のギター演奏はワディ・ワクテルのようで、映画ならではの合わせ技により本物の精度に肉薄。女性関係に加え、ディランやクラプトン、アーサー・C・クラークの『都市と星』など“ジミヘンの素”アイテムの鏤め方も良し。クリームのLIVEへの飛び入りシーンは燃えたな~。