パンク・シンドローム (2012):映画短評
パンク・シンドローム (2012)ライター4人の平均評価: 3.8
服の縫い目が気になるリーダー、好きだなあ。
自分たちの置かれた現状や政策に対して毒づき、牙を剥き、物申す。ロックの初期衝動に忠実なこいつらは、カッコよくてカッコ悪くて素敵…ではあるけれど、フィンランド国家がサポートする障害者のための音楽ワークショップから生まれた“パンクバンド”だという、普通じゃない背景が諸所で感じられるのも事実。実は保守政党の支持者だったり、大統領主催の晩餐会に出席したり、あげくは「若者ぶってパンクやってるのは仕事だからだ!」と言っちゃったり…。それは巷に溢れるビジネス・パンクの連中にありがちな景色だが、それも「おぉ正直じゃん」と笑って済ませられるキュートさが彼らにはあるのだな。こちらの色眼鏡かも知れないが。
知的障害者たちのパンクな生きざま
メンバー全員が知的障害者というフィンランドのパンクロック・バンド、ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァトの、賑やかでハチャメチャな日常に迫ったドキュメンタリーだ。
障害者ものにありがちな感動と涙の押し売りは一切なし。彼らの荒削りで暴走気味なパンクロックに刺激され、茶目っ気のあるユーモアに共感し、時にはラジカル過ぎる反骨精神にちょっとばかり苦笑い。きっと、こいつら健常者でもパンクをやってたはず。
フィンランドの障害者に対するケアは特に手厚いらしいが、その万全な体制がかえって彼らに不自由を感じさせてしまう皮肉。そんな矛盾に、一筋縄ではいかない社会保障の難しさも思い知らされる。
シャシンには写らない美しさがあるから
知的障害者たちによるパンクロックバンドのドキュメンタリーというと特異な題材に思われるかもしれないが、それはとっかかりに過ぎない。描かれるのは、あくまで人間だ。
メンバー間のケンカや葛藤、すれ違い、それぞれの恋愛、歌に込められた生活環境への不満、演奏後の達成感。それらひとつひとつを観客に理解させる、フラットな視点がイイ。
正直なところ、こういう作品の原稿を書く際には気遣いを強いられるのだが、本作には “んなこたあ、どうでもいいじゃねえか!”というような美点が宿る。ステージ上で懸命に演奏するバンドと、フロアで熱狂するイカツいパンクスたちの一体感にふれると、そう思わずにいられない。
猛毒なパンクロックが好きだ
「♪施設なんか大嫌いだ! もうガマンできねえ! 友だちの家で暮らす!」「♪議員どもの言ってること全然ワケわかんねえ!」
和訳するとまるで日本の80sパンク的。フィンランドの知的障碍者による人気パンクバンド(30~50代のおっさん四人組)を捉えたドキュメンタリーだが、えらくカラッとした仕上がり。社会に抑圧されている者の憂さ晴らし、というパンクロックの王道にひたすら忠実で、音楽ファンなら皆「クソかっこいい」と痺れるはずだ。本気で曲もイイんだよなあ。
『少年メリケンサック』にも似てるな、と思いつつ、こちらは全くナマ素材のままスパッと88分。映画自体も3コードのシンプルさでたくさんの真実を伝える。