ヴィンセントが教えてくれたこと (2014):映画短評
ヴィンセントが教えてくれたこと (2014)ライター4人の平均評価: 3.8
クソじじいがチャーミングに見えてくる不思議
深酒して泥酔するわ、競馬ですっからかんになるわ、妊娠した売春婦を値切るわ……。神様もきっと「ダメ男」と断定する、絶対に隣人にしたくないクソじじいになぜか懐くいじめられっ子。キャラ設定だけで展開が読めるのだけど、ビル・マーレイの怪演で笑って泣けるだけで1800円払う価値あり! 幕開けと同時に始まる、人生を放棄しているとしか思えないヴィンセントの暴挙がとにかく凄まじい。彼が少年と絆を培ううちに微妙に軟化する感じをマーレイが絶妙に演じるから、チャーミングにすら見えてくる。厭世的なキャラはマーレイが得意としているが、ワケありな感じも漂わせる。これが後半に生きるし、そのシーンには胸を締め付けられた。
決して反省しない不良ジイさんがステキです
懲りないひねくれ不良オヤジを演じさせたら天下一品のビル・マーレイが、母子家庭に育つ孤独ないじめられっ子少年との友情を育む。
基本的には感動系のお話なのだが、マーレイ扮する爺さんが実は優しくて愛情深くて…と違う一面が徐々に明かされ、最初は煙たがっていた少年と心を通わせるようになっても、最後まで己の素行の悪さを反省しないのがステキ(笑)。そりゃそうだ、プラスもマイナスもあってこその人間なのだから。
少年役のC・オダウドも抜群に可愛らしいし、ハラボテのロシア人ストリッパー役のN・ワッツの怪演も愉快だが、なによりもコメディエンヌを封印してシングルマザーの苦労を演じるM・マッカーシーが抜群に良い。
悪いオヤジと善き少年のバディ・ムービーとして絶品
皮肉屋で、だらしなく、いつも不機嫌で、頑固者。実際にそういう老人がいるのかはわからないが、ビル・マーレーが演じると“いるかもなあ”と思える不思議。
邪気のない少年との交流は淡々としたエピソードの積み重ねで無駄なく描かれ、このダメオヤジを聖人へと変えていく。“ダメ”の裏側にある悲しみを覗かせつつ、ユーモアも忘れないドラマ運びがいい。
いつもながらの仏頂面で飄々とスクリーンを泳ぐマーレーの好演は、もちろん妙味。クリーンな個性を持つ子役ジェイデン・リーベラーとの相性もよく、二人が同じ画面に収まっているだけで何かが起こりそうな空気が漂う。これは巧い。
ランドール・ポスター、ビル・マーレイときたら
音楽監修のランドール・ポスターが、今回もスゴイ。主人公がひとりで踊るジェファーソン・エアプレーン、少年がいじめっ子とケンカして勝ったときのクラッシュと、ナイスな選曲の連打にヤラレる。
そして主演のビル・マーレイが、今回もスゴイ。「ロスト・イン・トランスレーション」「ブロークン・フラワーズ」と彼が押し進めてきた、年季の入ったダメ男でヤなヤツなのにキュート、という人物を演じさせたら、もうこの俳優の独壇場。
ランドール・ポスター、ビル・マーレイときたらウェス・アンダーソン監督作を連想させるが、こちらはもっと下世話で乾いて埃っぽい、また別の世界を生み出している。