ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~ (2014):映画短評
ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~ (2014)ライター3人の平均評価: 3.3
デヴィッド・リンチを彷彿とさせるアート系ヴァンパイア映画
ドラッグや売春が蔓延るイランの荒廃した町で、夜の闇に生きる孤独なヴァンパイアの少女と貧しい若者の奇妙な関係が描かれる。
セリフは全てペルシャ語で舞台もイランという設定だが、実際はカリフォルニアで撮影されたアメリカ映画。モノクロのノワールなタッチがユニークなアート志向の強い作品ゆえ、ストレートなホラー映画を期待すると裏切られることだろう。
デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』を彷彿とさせるという意味で、海外での評価がすこぶる高いのは理解できる。女性の地位が低いイスラム社会を風刺したフェミニズム的メッセージも興味深いが、淡々とした平坦な展開が観客の忍耐力を要求することも否めない。
ヴァンパイア少女よりも、にゃんこに軍配!
モノクロ映像とペルシャ語で綴られるヴァンパイア・ホラーというルックだけでお腹いっぱいなのに、チャドルのインナーはボーダーシャツで、スケボー乗り。ウエスタン調の音楽に至るまで、てんこ盛り過ぎだ。そのうえ、謎の風船ダンスから余韻を残すエンディングまで雰囲気重視ということで、B級ギャングスタ映画のようなストーリー展開は恐ろしく単調で、演出も追い付いてない。熱狂的に支持される理由も分からないでもないが、ちょっと過大評価されてる感アリ。とはいえ、にゃんこ映画としては今年のベスト級であり、完全にヴァンパイア少女を喰っている。
チャドルを被ったヴァンパイア少女の牙は小さい
少女が被るムスリム女性が頭から全身を覆う布は、古典ホラー映画のドラキュラのマントに似ていて、影の輪郭は同じ。その布に溜め込んだ黒い闇の間から、すこしだけ覗く白い顔は、まだ女ではない少女のもの。彼女が口を開けて見せる牙は、猫の歯のように小さく尖っている。少女の頬は白く硬いが、その唇の間に覗く黒さと、彼女の瞳の黒さに籠る、むっとする熱気と湿度は、全編モノクロ映像の黒の濃い夜が孕むものと同じ。ペルシャ語でヴァンパイア映画でロゴも一部音楽もウエスタンな無国籍。監督アナ・リリ・アミリプールの新作は、キアヌ・リーヴス主演のテキサス舞台のラブストーリー「The Bad Batch」だそうで楽しみ。