ハイ・ライズ (2015):映画短評
ハイ・ライズ (2015)![ハイ・ライズ](https://img.cinematoday.jp/a/T0020797/_size_640x/_v_1476151216/main.jpg)
ライター3人の平均評価: 3.3
70年代に作られてれば間違いなくカルト作。
初訳のときに読み、僕の中では“嫌な気持ちになる本”上位に未だに居座る原作だが、律儀にもこれが書かれたのと同じ’70年代を背景に映画化したのは正解なのか? 確かにテーマだけすくい上げれば当時の社会情勢を色濃く反映した階級闘争の図式に過ぎるし、現代あるいは近未来を舞台に再現したって時代錯誤になるのは明白だが (ビルの最高階が40回というのも今じゃ普通だ)。でもこれではやっぱインパクト弱いのよねえ。どこまでも普通小説に見えてどうしようもなくSFなのがバラードの持ち味、高層マンションを横にして爆走させてみせた『スノーピアサー』のポン・ジュノがいかに今と切り結び、巧みに読み換えたかを追認できる。
偽善に満ちた文明社会の実態を暴く問題作
まるで英国社会のヒエラルキーを象徴するような超高層マンションで、低層階に住む中流層と高層階に住む富裕層との間の見えない壁に亀裂が入り、やがて阿鼻叫喚の凄まじい階級闘争へと発展する。
冷たくも洗練されたモダニズムと悪趣味スレスレのグロテスクが混在するシュールな世界観はまるでクローネンバーグ。ステイタスという化けの皮を剥がされた人々の醜い衝突が、偽善に満ちた文明社会の実態を暴く。
2つのカバーソングとして使用されるABBAの「S.O.S.」が、本作の時代設定が’75年であることを物語る。当時風の細身スーツを着こなすトム・ヒドルストンのカッコ良さ。随所で見せる鍛え抜かれたヌードも必見。
高層建造物の輪郭が奇妙に美しい
高層住宅全体のシルエットが、この物語そのものを視覚化している。建造物の上の部分だけが、奇妙に曲がって飛び出している。そのせいで、建物全体の安定感が失われている。現実にはありえないが奇妙に美しい。
崩壊する前の建物内部のクールなデザインと、それを映し出す冷たい質感の映像も、原作で主人公がこの建造物に感じる"その魅力の半分は、これが人間のためではなく、人間不在のためにつくられた環境であるという点にある"というイメージを映像化する試みだろう。トム・ヒドルストン演じる主人公の裸の日光浴は映画だけのサービスカットかと思ったら、原作にも彼の趣味が"バルコニーでの裸の日光浴"だと書かれていた。