The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ (2017):映画短評
The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ (2017)ライター5人の平均評価: 3.2
鮮烈さではなく、繊細さを重視
ドン・シーゲル監督の『白い肌の異常な夜』と同じ原作ということで、そのイメージで見てしまうせいもあるが、スリラーとしての衝撃では同作にはかなわない。しかし、本作の魅力はそれ以外の部分にある。
イーストウッドの要望で人間を露悪的に描いたシーゲル版に対し、本作ではそれが抑えられ、リアルな心理が追求される。女性たちは立ち位置や気持ちが理解できるものとしてとらえられているのは、それがS・コッポラの意図したものだからだろう。
女優陣はいずれもイイ味を出しているが、唯一の男性キャスト、C・ファレルも巧い。ただし、シーゲル版のイーストウッドのような悪人ではないので、そのイメージは忘れて見るべし。
年齢を重ねたソフィア・コッポラの成熟を味わいたい
基本的にはドン・シーゲル版『白い肌の異常な夜』とほぼ同じストーリーなのだが、どこからどう見てもソフィア・コッポラの映画に仕上がっているのは、彼女の揺るぎない作家性の賜物であろう。
ただ、以前のソフィアであればエル・ファニングら少女たちにフォーカスして、若い女性特有の無邪気と残酷を浮かび上がらせたものと思うが、しかしここでは明らかにニコール・キッドマンとキルスティン・ダンストに感情移入し、もはや若くはない女性の理性と欲望、プライドと本音の葛藤を丁寧に紡いでいく。それは彼女自身が年齢を重ねた証とも言える。それでいて、決して生々しくならないところもソフィア流だ。
アマゾネス映画にしたら、もっと面白くなったかも
クリント・イーストウッド主演『白い肌の異常な夜』のリメイクを原作と同じく女性目線にしたのがソフィア監督らしさか。ただオリジナル版のサイコ・ホラー感が薄れさせ。奴隷の老女を省いた理由がわからない。老女は負傷した北軍兵の囚われ感に観客の同情を増幅させる存在だっただけにもったいない。説明的な台詞を嫌うのはわかるが、登場人物の背景がぼやけて人物造形がつかめないし、重要なポイントとなる唯一の男をめぐる女たちの葛藤も腑に落ちない。最後までソフィア監督のピントのズレは続くので、南部の上品な貴婦人が実はアマゾネスでしたという展開にすればよかったのにと心の中で余計なお節介を焼きました。
昼も薄闇に閉ざされた空間で想いが膨らんでいく
オリジナル作の出来事を、女性の視点から描くーーこの発想自体が現代的。映画がすべて自然光のみで撮影されているのは、登場人物たちの目に映る世界の様相を、観客に体感させるためだろう。南北戦争下、彼女たちが暮らす館の内部は、日中は照明器具を使わないので薄暗く、夜間もランプや蝋燭の光はごく狭い範囲にしか届かない。その薄闇がさまざまな思いを培養していく。女性たちの衣装がみな白色で柔らかな素材なのは、彼女たちの汚れやすさ、壊れやすさを形にしたものだ。そしていつものように、この監督の描く女性はみな"女子"で、"女"とは少し違う。"女子"は不仲でも共通の敵を見つけた時は結束する。そして微塵もためらわない。
女性監督ならでは。2017年を象徴する作品
アメリカ公開は2017年6月末で、#MeToo運動が起こる秋より前だったのだが、今思うと、結果的に“女性の年”となったこの年に公開されるのにとてもふさわしい映画だった。男に対して、一見非力な女性たちが立ち上がるのだから。その一方で、女性同士の嫉妬心、男を惹きつけたいという願望など、女性のそれほど美しくない部分もしっかり描いている。これらはまさに、監督で脚本家のソフィア・コッポラが女性だからできたことだ。
コッポラにとってはこれまでで最もダークで、大人に向けた映画。彼女の監督として、また人としての成熟ぶりがうかがえる作品でもある。