スパイダーマン:スパイダーバース (2018):映画短評
スパイダーマン:スパイダーバース (2018)ライター5人の平均評価: 4.6
「これぞアニメだ!」の領域まで連れてって
主人公は、アフリカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母を持つ少年。それだけに、序盤戦は「なるほど」と納得しつつ、「別にアニメじゃなくても…」とタカを括っていると、中盤からとんでもないことに! ポーキー・ピッグのパロディであるスパイダー・ハムや女子高生キャラと化したペニー・パーカーなど、アニメだから許されるキャラが入り混じり、「これぞアニメだ!」の領域まで連れてってくれるのだ。ちなみに監督の一人は、『22ジャンプストリート』のロドニー・ロスマンで、脚本家の中にはフィル・ロードもクレジット。決して安易な企画ではなく、ソニー・ピクチャーズアニメは裏切らないことを実証した一本!
サム・ライミ版スパイダーマンの心意気を継承!
"アニメーションにしかできない映像表現"が刺激的。さらに、このモチーフの原点である"アメコミ"を意識し、その分野特有の視覚表現をアニメーションに効果的に取り込んでいる。この表現だけで見る価値がある。
加えて胸を熱くさせるのは、冒頭から、スパイダーマン紹介映像によって、これこそがサム・ライミ監督版に続く物語だと宣言すること。そしてその宣言通り、サム・ライミ版の心意気を継承してみせる。それは"スーパーヒーロー映画とは、身も蓋もない昔ながらの正論を、感動とともに伝えるものだ"という信念だ。ヒーローには誰もがなれる。ヒーローとは、何度でも立ち上がる者のことである。そんな正論が直球で胸を打つ。
これまでで最もクールなスパイダーマン映画
マスクを被っていて顔が見えないスパイダーマンは人種を超えて子供たちの心をつかむヒーロー。アンドリュー・ガーフィールドも、「黒人のスパイダーマンが出てきてもいい」と語ったことがある。とは言え、ピーター・パーカーが主人公である以上、現実的にはないだろうと思っていたら、今作が見事にやってみせた。ピーターも、メリー・ジェーンもちゃんと出ていて、しっかりあのユニバースに存在しつつ、音楽といい、キャラクターといい、全体のトーンといい、エッジが効いていて独自のものになっている。コミックブックを意識したユニークなビジュアルも新鮮だ。これまでで最もクールなスパイダーマンと言ってもいいと思う。
外伝系としては破格の好企画!
総勢86名のスパイダーマンが登場するダン・スロットの異色原作(翻訳本出てますんでぜひ)をもとにした、すっごいユニークな映画化。これは傑作の域だろう。本家のブラックムービーVer.とでもいった基調に、漫画のフレーム感を押し出したグラフィカルな楽しさ。東映版&レオパルドンとかは出てこないけど、その代わり日本の萌えキャラ(JK)的造形で話題のペニー・パーカーが大活躍!
手塚治虫先生のヒョウタンツギみたいなスパイダー・ハムのカートゥーン性など、色んな質の作画が共存しているミクスチャー味がたまらん。オリジナルの世界を大胆に拡張させたお話も当然面白い。シリーズが続けばもっと和モノが乱入してくるかも……!
アニメゆえの自由な表現が、こんなにうまく機能するとは!
『ヴェノム』エンドロールでのやや冗長な予告映像を観た時は正直、不安がよぎった。しかしこの完成作からは、ヒーローの物語、コミックの遊び感覚、それを映画にする工夫が全編に満ちあふれ、「アメコミヒーローの原点」を再認識させる。
モノクロキャラ、日本のアニメ風キャラらの混在も受け入れやすく、中年になったピーターの悲哀など実写なら生々しくなる描写も、アニメゆえにスムーズに感情移入可能。スパイダーマンの豪快なスイングや、チームでの戦いは、もはや見飽きた感のある「実写+CG」より格段に痛快で爽快だった。
サム・ライミ版とアメイジング計5作へのオマージュも機能し、スタン・リーの登場には胸が締めつけられる。