ピーターラビット (2018):映画短評
ピーターラビット (2018)ライター6人の平均評価: 3.3
『ANNIE/アニー』に続いてまたも....やっちまったな!
『ANNIE/アニー』に続いて本作もとなると、ウィル・グラック監督に”壊し屋”の称号を与えたくなる。
英国ロイヤル・バレエ団が演目にもしている原作のメルヘンな世界を良くも悪くも裏切るのはファンを敵に回しかねないワケで、むしろその強心臓に敬服。
原作本来持つ残酷さをフィーチャーし、『パディントン』の勢いにあやかろうとした結果なのだろう。
ただ自然での人間VS.動物のドタバタ劇は、「ひつじのショーン」シリーズのお株で既視感しかない。
せっかくの品をお持ちなのだから、何もこの領域に足を突っ込まなくても?とか、別のオリジナルのキャラでも成立したのでは?と思ってしまう。まさかラジー賞狙い⁉︎
原作とは一味違うやんちゃなうさぎがキュート
世界中で愛されている絵本に現代風なひねりを加えたチャーミングな作品。ドラマはテンポよく進んでいく上、ユーモアがふんだんに散りばめられているので大人から子どもまで幅広く楽しめるはず。また冒頭で4羽のスズメがうたう場面があったりとミュージカル要素もプラスされていて、『アナ雪』好きも満足? それにしてもCGの進化には驚く! ピーターと家族の毛並みはテッドよりももふもふだし、おまぬけな豚やハリネズミのティギーおばさんといった仲間たちの再現度の高さにはただもう感動。ジェイムズ・コーデンが声を当てているせいか、ピーターはいたずらつ子というよりもヤンキーっぽい雰囲気。これは原作ファンには意外かもしれない。
原作を大胆に換骨奪胎した現代版ピーター・ラビット
世界中で親しまれる絵本を換骨奪胎した実写版。ブラックなユーモアとアクションが満載のアップテンポなノリは、牧歌的でのどかな原作本やテレビ版をこよなく愛する人ほど抵抗感を覚えるかもしれないが、しかし好奇心旺盛な腕白坊主ピーター・ラビットのキャラには原作の精神がしっかりと宿る。現代仕様のアップデートとして、恐らくこれは正解なのだろう。
動物嫌いのマクレガー青年との仁義なきバトル、そんな宿敵と動物好きな女性ビアの恋路の妨害作戦を軸とした展開は極めてベタだけど、まあ、あくまでもファミリー映画ですからね。マーゴット・ロビーにデイジー・リドリー、さらには歌手Siaまで動員した豪華な動物声優陣も要注目。
トマトとダイナマイト飛び交う、お隣さん戦争
『ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ』での優雅なイメージが強いほど、ヒップホップ&ブラック・ユーモアで幕を開ける今回の実写版には、ド肝を抜かされる。つまり、原作ファンは激怒必至なのだが、ソニー・ピクチャーズ アニメーションの新作と割り切って観ると、とにかく痛快! “お隣さんは邪悪ウサギ”といった初期設定は『ネイバーズ』であり、ヌルい『ピンク・フラミンゴ』ともいえる嫌がらせバトルの行く末は、トマトとダイナマイトが飛び交う大戦争に突入する。ウィル・グラック監督だけにラブコメとしての仕上がりは保証できるうえ、『ANNIE/アニー』では失敗に終わった大幅なアレンジも、今回は成功したといえるだろう。
ウサギも人間も、ダークサイドがチラつくのが楽しい
おなじみの絵柄の一般向けイメージに沿い、ほんわかスイート味の映画に仕上がってたらどうしよう……と思って観たところ、いい方向へ期待が裏切られて安堵。「お父さんが人間にパイにされた」など原作のブラックな味付けにも言及し、ウサギvs.人間のかなり邪悪なバトルを徹底的にテンポよく、そして痛快に展開し、固定イメージを大胆に軽々と超越する。映画化するなら、これくらいやらないと意味ないでしょ!
その大胆なチャレンジを成功に導いたのがドーナル・グリーソンで、ウサギからの攻撃に七転八倒する動きなど、マンガ的アクションを見事にこなす。『スター・ウォーズ』の口ばっかりの悪役といい、“香ばしい”演技に開眼して好感。
実はピーターラビットはこんなキャラかも
しっかりピーターラビットの世界でありつつ、現代版にアップデート。このコンセプトが徹底されているのがいい。ピーターは、ラップもすれば夜のホームパーティも主催するイケてるウサギだが、もともと原作のピーターもいたずら好きのオチャメなウサギ。なるほど現代ならこういうノリのキャラかも。
基本は原作通り、英国の田園、上着を着た小動物たち。キャラの容姿も絵本の雰囲気を活かしたもの。それでいてスピード感はたっぷり、ちょっとブラックなギャグもあり、ナレーションの「おとぎ話ならこうだろうけど」など、メタフィクション風味もプラスされている。動物たちの動きの、人間的所作と動物特有の動作の配合の妙も見どころだ。