翔んで埼玉 (2019):映画短評
翔んで埼玉 (2019)ライター5人の平均評価: 4
ご当地映画の概念よ、変われ!
これまで数多くのご当地映画が誕生した。
そのほとんどが美談や感動に終始した観光PRと化し、市民の税金や善意が虚しく消費されていく様が悲しくて仕方なかった。
その悪しき流れが本作の快進撃で止まるか。
映画製作を画策している自治体には、必見にして欲しいくらいだ。
そもそも昨今のご当地映画の秀作は『下妻物語』、『サイタマノラッパー』、『大和 カリフォルニア』と自虐的な発想から生まれたものばかり。
地域格差甚だしい今、本作のように鬱屈した感情を爆発させるには映画という虚構の世界はうってつけのはず。
何を隠そう茨城出身者としては、武内英樹監督の手によって美味しくイジられている埼玉に激しく嫉妬する。
距離感と温度感の大勝利
満員御礼の劇場で鑑賞。国民的ヒット作へと伸びてる気配だが、まあ大きく言うと、トランプ風刺にも思えますね(笑)。バックラッシュ時代の身も蓋もなさと現状のフラット化(埼玉化)での挟み撃ちが絶妙。大らかに笑い飛ばすのがおそらく地域差別への最適解で、「程良い解放」に満ちている。『SR サイタマノラッパー』から10年、ある成熟を感じるなあ。
漫画原作映画という日本の特殊文脈の中で、『テルマエ・ロマエ』に続き結構なスケールでニセ世界をバラエティ的に構築する武内英樹監督の力量は突出。「小倉優子(千葉)、弱い!」とかウケたわ。二階堂ふみは三島由紀夫やヴィスコンティ的にもなるが、BLへの距離感も「大衆的」。
大真面目に馬鹿馬鹿しさに挑んだ勇気に拍手!
高校生役のGACKTは年齢だけでいえばありえないのだが、魔夜峰央の世界観を表現するには唯一無二の絶妙なキャスティング。その実在感が作品の根幹も支えている。少女にしかみえない美少年役に女性の二階堂ふみを起用したのも馴染んでいるし、原作には名前しか登場しない京本政樹の役も、そっくりなキャラクターがいたかのよう。
未完の原作部分を伝説とし、そのツッコミ役にオリジナルの現代パートを加え、大ボラを吹く物語をうまくまとめている。シャレがわかってもらえないと成立しない作品だけに様々な懸念もあっただろうが、近年の日本映画には少ないナンセンスコメディを低予算作品でなく成立させたことに敬意を表したい。
魔夜ワールド実写化で最適キャストが必死の持ちこたえ
魔夜峰央の世界を生の人間が演じるリスクは、GACKT、京本政樹という他に差し替え不能な最適キャストに、二階堂、伊勢谷も必死に食らいついてる感じで、なんとか持ちこたえられている。独りよがりで暴走しない演技は好感。魔夜ワールド独特のBLテイストも、男女キャストになって、別ベクトルへ導かれる妙な感覚を形成する。
漫画の世界では痛快に感じる小ネタは実写だとドラマの中で浮きやすいし、自虐的ローカルネタの応酬も90%くらいはサムいギャグなのだが、残りの10%くらいで不覚にも爆笑してしまうので、なんとなく温かい目で観続けられてしまう。群衆場面に明らかに東京マラソンの映像を混ぜてたり、全体の勢いは楽しい。
ケレンミたっぷりの裏フジテレビ映画
ネタ的に「月曜から夜ふかし」「さんま御殿」要素が強いが、日本テレビでなく、フジテレビ映画。とはいえ、王道路線でなく、「ぼくたちの映画シリーズ」な変化球。徹底して、宝塚ノリで突っ走るトンデモ革命物語を、武内英樹監督は『テルマエ・ロマエ』以上にケレンミたっぷり、スケール感たっぷりで描く。しかも、これを「都市伝説」に変更した、いちげんさんも入りやすい脚色は正解だ。白塗り&ふんどし姿で登場してくれる麿赤兒など、『テルマエ』とは別の意味で濃ゆいキャスティングも文句なし! 原作者・魔夜峰央が『パンツの穴』にゲスト出演して35年、まさか鈴木則文監督テイストがこんな形で復活するとは!!