さらば愛しきアウトロー (2018):映画短評
さらば愛しきアウトロー (2018)ライター9人の平均評価: 4
強盗仲間がトム・ウェイツとダニー・グローヴァーってのも。
「これは実話に近い物語である」と最初に出るのは『明日に向って撃て!』だし、ラスト近くには『逃亡地帯』等若き日の出演作が引用され、なるほどレッドフォードの俳優引退作と伝えられるだけある。でもそれ以上に彼を中心とした’70年代アメリカ映画へのかなりイカれたラヴ・コールなのがイイ。音楽もクインシー・ジョーンズやデイヴ・グルーシンのような小粋でジャジーなタッチ。スーパー16ミリフィルムを使った画調。レッドフォード演じる紳士強盗とシシー・スペイセク演じるヒロインは、『ホット・ロック』と『地獄の逃避行』でふたりがそれぞれ演じたキャラのその後を想わせるなど、D.ロウリー監督のシネフィルぶりを愛でる一作。
ベストアルバム
優しい二枚目、だけどアウトロー。こういった古風なロマンティシズムに82歳のレッドフォードは同期して崩れない。嫌味なく爽やか。『明日に向って撃て!』は「血の出ないニューシネマ」だったが、ここにバカラック/B.J.トーマスの「雨にぬれても」が流れても泣ける程ハマりそうだ。
サンダンス主催など様々な功績を持つ彼だが、役者としては演技以上にキャラクターの人かもしれない。意外性よりも、とことん「この人らしい」と思える最後の自画像。その幸福が“The Old Man & the Gun”という出来すぎの原題からも伝わる。今年は『アベンジャーズ/エンドゲーム』とこの映画でレッドフォードを観ることができた。
汚れ役なのに男前なレッドフォード
本作で俳優引退するらしいR・レッドフォードが美男俳優としての有終の美を飾った。紳士的な物腰で銀行強盗を続け、服役後は脱走を繰り返した主人公タッカーは、冷静に考えると反社会的なソシオパス。しかし、レッドフォードが演じると犯罪がさほどいけないことに思えなくなるから不思議。汚れ役を演じても男前でいられるのが大物俳優の底力か。D・ロウリー監督は映像に凝る人で、今回はスーパー16での撮影。これがノスタルジックな雰囲気を作り上げていて、レッドフォードの若き日の映像や写真を組み合わせたシーンに違和感なし。本人もファンも満足の別れの歌なり。
ロバート・レッドフォード、有終の美を飾る俳優引退作
アメリカン・ニューシネマへの愛情と憧憬の溢れる『セインツ‐約束の果て‐』で名を上げたデヴィッド・ロウリー監督が、今度はロバート・レッドフォードという偉大なスターを通して、改めてあの時代のアメリカ映画へリスペクトを捧げた作品だ。レッドフォードが演じるのは年老いた心優しき銀行強盗。常に紳士的で礼儀正しく、銀行から金は奪っても決して他人を傷つけない。そんな彼に『明日に向かって撃て!』や『スティング』などでレッドフォードが演じたアウトロー像を重ねつつ、何度捕まっても懲りない彼の「生と自由への渇望」が描かれる。相手役にシシー・スペイセクを配し、キース・キャラダインをカメオ出演させるセンスも素敵だ。
オールドスクールが味、の名優の花道
レッドフォード、老けたなあ……と思うのは仕方がないが、それでもあの笑顔にホッとするし、過去作の記憶を呼び起こす。
”善良な犯罪者”を演じた点では、『ホット・ロック』の高齢バージョン。さらに自由人、ロマンチストと言った要素がレッドフォードの過去作と重なり、ニヤリとさせられる。俳優業からの引退を公言した彼の集大成というべきか。
『A GHOST STORY…』で注目された俊英ロウリーは急がず焦らず、オフビートな笑いや人間味をまじえながらドラマを語る。愛すべきオールドスクールを踏まえた演出もレッドフォードを引き立てるに十分だ。オスカー俳優の豪華共演も重厚というよりは軽やかで、妙味。
これが本当に最後の主演作なら、カッコよすぎ!
この作品で俳優引退とは、なんてカッコいい幕引きだろう。観終わった瞬間、そんな感慨に包まれる。80代にして、この肩の力の抜けた軽やかな演技。一方で男として、アウトローとしての衰えない欲望をギラつかせ、そこはかとない哀愁が漂う。レッドフォードの俳優としてのキャリアが重ねられた終盤のシークエンスは、映画が起こす奇跡の化学反応と言っていい。
現代ではありえない手口の犯罪は、やや安易でユルさも感じさせるが、そのユルさがノスタルジーと化し、コクのある味わいになっていく。
シニア向け、映画ファン向けの作品ではあるが、心に突き刺さるセリフや、解放感で満たされる映像があちこちに備わった佳作。
若くないからこそ手に入れられる身軽さがある
予告編でも主人公の言葉として語られる通り、Make Living(生計を立てる)は眼中になく、ただLiving(生きる)だけを全うしていく男の話。それも若いときだけではなく、歳を取っても貫き続けて生き延びる。すると、そのようにして老境に入った者だけが手に入れられる、まったく無駄な力が入っていず、ひょうひょうとしていてチャーミングですらある佇まいが備わる。そんな人物を体現してなるほどと思わせるのは、ロバート・レッドフォードだからだろう。
その主人公を追う刑事の、主人公のありように魅せられつつしかし自分の職務として捜査し続けるという、また別のLivingが、並行して描かれていくのもいい。
オマージュたっぷりのレッドフォード版『運び屋』
原題は『老人と海』ならぬ“老人と銃”。冒頭の字幕「ほぼ実話」から、“強盗”レッドフォードの代表作『明日に向かって撃て!』オマージュであり、『ホットロック』『スティング』のスマートさも兼ね備えたワルの懲りない老後が描かれる。俳優業引退作にして、人生の落とし前を扱った題材ながら、デヴィッド・ロウリー監督の演出はどこか肩の力が抜けており、ときに笑いを誘う。シシー・スぺイセク相手にあっちの方もお盛んであるうえ、彼を追う刑事を演じるのが同世代のベテラン俳優でなく、ケイシー・アフレック。次世代への遺言という意味でも、“レッドフォード版『運び屋』”として観ると、かなり感慨深い。
映画スターとはこういうものだと最後に宣言
見目麗しい高齢ジェントルマン。機知に富み、会話の端々にいたずらっ子さをのぞかせる。プライベートが謎だった時代に世界中を魅了した映画スター、レッドフォードの最後の作品に、これほどふさわしい役があるだろうか。しかも主人公はこれまた銀行強盗なのである。愛すべきワルを、たっぷりの余裕とカリスマで見せてくれる彼は、「これが映画スターだよ」と心の中でウインクしているかのようだ。強盗の話なのにバイオレンスがほとんどなく、恋愛の部分も、急がず、優しく、温かい。過激さやエフェクトがなくても映画はこんなに人を引き込めるのだと見せつつ去っていくレッドフォードは、カッコよすぎる。