ガルヴェストン (2018):映画短評
ガルヴェストン (2018)ライター5人の平均評価: 3.4
逃避行の果てに
長年、描かれ続けてきた危険な男と女の逃避行を、ここまで魅せ切ってしまうとは、映画監督メラニー・ロランの実力に脱帽! 過去と現在を行き来する原作から、時間軸を一本にした脚本によって、2人のストレートな感情がより生々しく、決して小手先ではないワンカット撮影にも息を呑む。さらに、波や風などの自然音とシンクロするアルノー・ポーティエの撮影からは、ただならぬ湿度も感じさせる。ベン・フォスターキャリア史上最高の芝居(ライアン・ゴズリング風とは言わせねぇ!)に加え、18年日本映画界のダークホース『ごっこ』にも近い展開&エモすぎるラストもアリ、いまスクリーンで体感すべき一本である。
繊細と骨太が交錯するメラニー・ロラン節
殺し屋ロイの贖罪と復讐がテーマなのでハードな暴力シーンがあるものの、中心となるのは心に傷を負った者の人間ドラマ。メラニー・ロラン監督はロイと彼がギャングから救った少女売春婦ロッキーが絆を培う過程を繊細に、ニュアンスたっぷりに描いており、観客は二人に感情移入しやすい。ノワール色が濃い犯罪ドラマだがハリウッド風味ではないし、繊細と骨太が交錯する演出にロランの才能を感じる。役者がまたベストな配役! 演技派B・フォスターがロイの複雑な心理を見事に演じ切っているし、あどけないE・ファニングの売春婦っぷりは見ているこちらが辛くなるほど。
痛々しくも切なく哀しいノワーリッシュなラブストーリー
これが初めてのアメリカ資本となる、フランス女優メラニー・ロランの監督最新作は、リン・ラムジーの『ビュ-ティフル・デイ』を彷彿とさせる、ノワールタッチのバイオレントなラブストーリーだ。病を宣告され組織に見捨てられた殺し屋ベン・フォスターが、たまたま命を救った家出娘エル・ファニングを連れて逃避行の旅に出る。全てを失い自暴自棄になった中年男と、不幸な生い立ちを背負い人生に疲れた少女が、お互いの存在に微かな希望を見出していく。原作者が不満を示したという脚本は確かに変哲もないが、しかし厳しさの中に豊かな情感をたたえたロラン監督の演出は悪くないし、なにより主演コンビの哀切に満ちた演技は素晴らしい。
男が見る世界の色彩が、いつも濃く深い
世界の色が濃い。それはその色が、もうこれを見るのは最後かもしれないと思っている男の眼に映るものだからだ。組織の追跡から逃げる死期の迫った男と、それに同行することを決めた女のロードムービーでもあり、2人が自動車で通り過ぎていく光景はいつも色が濃く深い。原作はTV「TRUE DETECTIVE/二人の刑事」のクリエイター、ニック・ピゾラットの小説。男は純粋で愚かなので、この2つが組み合わるといつもそうであるように、ロクなことにはならない。
エル・ファニング演じる女性がなんとなく口ずさむ歌がアレックス・チルトンの伝説的バンド、ビッグ・スターの「サーティーン」で、この世界によく似合う。
エル・ファニングだけでも鮮烈なバートボイルド
抜け目はないがダメ人間、そんなキャラを得意とするベン・フォスターの久々の主演作ということで、前のめりで見たが、期待にたがわぬ出来。ハートボイルド・キャラとして、しっかり機能している。
死期が近いと知り、自暴自棄に奔走するチンピラの、ゼエゼエした息遣いが聞こえてくるような画面。タランティーノに揉まれた女優兼監督メラニー・ロランの骨太で硬派な演出が光る。
何よりも光るのがスクリーンに映るヒロイン、エル・ファニング。若さに似つかわしくないクソのような人生の体現、ドレス姿で輝く肢体、そして汚れのない母性……キャラクターのはかなさを含め、ハードボイルドに必須のファムファタールがそこにいた。