ロマンスドール (2019):映画短評
ロマンスドール (2019)ライター3人の平均評価: 4.3
タナダ世界の静かな蒼井優を堪能しよう!
『彼女がその名を…』『斬、』『宮本から君へ』などなど、激情型のキャラクターが続いた蒼井優ですが、本来はこの位の落ち着いた・低体温テンション映画でも充分魅力を発揮できる女優で、そのことを改めて確認させてくれます。相手役が高橋一生というところもまたほどほどの熱量で堪能できます。
原作小説からかなり刈り取られて、より物語の芯の部分だけを見ることができます。
思った以上にピュアでかわいらしい大人のラブストーリーでした。
ラブがロマンスになるオトナのための寓話
冒頭でオチを明かしてしまう構成に、タナダユキ監督のただならぬ自信が感じられる本作。高橋一生ときたろうのコントのような掛け合いで笑いを誘ったかと思いきや、意外なお仕事映画として熱量を持ち始め、究極の夫婦愛映画として、見事な着地を決める。まさに、ラブがロマンスになるオトナのための寓話。独特な世界観ながら、『宮本から君へ』とはまったく違うアプローチで魅せる蒼井優の巧さに加え、大塚亮の撮影×16mmフィルムのざらつき感が、リアリティを醸し出し、いつの間に涙腺を直撃。同じラブドール映画の『空気人形』と比較するのが失礼なぐらい『百万円と苦虫女』を超えたタナダ監督の最高傑作といえる。
シームレスな日常(人肌)と寓話(人形)
2009年の同名原作小説は、タナダユキのストーリーテラーの才が鮮やかに発揮された“番外編傑作”。今回はご本人による申し分ない映画化だ。小説は「僕」の一人称だが、映画は夫婦のパートナーシップという主題線が太い。高橋一生と蒼井優扮する「個と個」として屹立する肉体と魂が、いかに溶け合うかを見つめる物語とも言える。
ラブドールとの材から『ラースと、その彼女』『空気人形』と並べる向きは多いだろうが、筆者は『緑色の部屋』『惑星ソラリス』『ベティ・ブルー』『火の鳥・未来編』や『こち亀』までも連想。内包するエレメントが広い。神聖でありつつ後味はジョークのような可笑しさも。ラストの台詞は(改めて)最高!