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帰れない二人 (2018):映画短評

帰れない二人 (2018)

2019年9月6日公開 135分

帰れない二人
(C) 2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.6

ミルクマン斉藤

クレジットには中国語映画界の意外な名前がずらり。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

決して判りにくい映画を撮る監督ではなかったけど、近年いい意味で大衆性を増してきたジャ・ジャンクー。邦題は井上陽水だが(笑)原題を訳せば「江湖の男女」。江湖と云えば武俠小説でおなじみのアウトローというか渡世人、21世紀初頭から現在までの中国の変遷とともに腐れ縁的黒社会カップルを追う恋愛映画であり、変格フィルム・ノワールでもある(一発アクションも結構凄い)。といっても舞台は地方都市、プロットは『青の稲妻』『長江哀歌』の延長線上にあるのは明白だ。ジャ・ジャンクーの大ファンであるウォルター・サレス映画のキャメラマン、エリック・ゴーティエによる、五つのタイプを使い分けたデジタル撮影も見事。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

最高にロマンティックで切ない純愛を描くヤクザ映画

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

変貌著しい中国社会と黒社会で生きる男女、チャオとビンの関係をシンクロさせる構成だが、恋愛がメインなのに驚く。が、監督のストーリーテラーぶりは相変わらず感動的だし、ロマンティックな余韻に酔いしれる。若き二人が火山を見ながら「高温で燃えた灰はピュア」と話したように、激しく燃えたがゆえに純愛となった思いを胸に抱き続けるヒロイン、チャオの覚悟にただもう胸を打たれた。裏切った男が弱ると“江湖の義理”で助けの手を差し伸べつつも、プライドから愛情を受け取ることは拒否する心情に激しく共感した。演じるのは監督のミューズでもあるチャオ・タオで、一途で激しく、何があっても生き抜ける強い女性役がピタリとはまっている。

この短評にはネタバレを含んでいます
中山 治美

中国版”極妻”

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

昔、監督にチャオの起用理由を尋ねると、既成の女優にはない自然さだと語っていた。その素朴さは地方を舞台にした監督の作品に合っていた。だが、コンビを組むこと早約20年。いまや国際派女優となった彼女は、役を演じるようになった。それは若干寂しくもあるが、本作で見せる貫禄もまた彼女が自然と身につけたもの。それが本作には合う。
ヤクザな男に惚れたが為に翻弄され、何度裏切られても手を差し伸べずにはいられない本作のチャオの人生は、まさに東映”極妻”の世界。ジャ作品お馴染みの移りゆく中国社会を映しだしながら展開する義理と人情とキケンな香りに、日本の映画界が失くしたものを見るかのようで郷愁すら感じるのである。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

このあまりに広大な中国で生きていくことの厳しさ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 中国の経済が急速に成長した21世紀の17年間を背景に、渡世に生きる男女2人の複雑にもつれ合う愛と憎しみの軌跡を、3つパートに分けて描いていく。『長江哀歌』や『山河ノスタルジー』などでも用いられた、ジャ・ジャンクー監督の得意とするストーリー構成だが、今回は極めてシンプルなラブストーリーであること、いわゆる黒社会の人々に焦点の当てられていることが興味深い。社会の荒波を強く逞しくしたたかにサバイブする女と、下らないメンツやプライドに囚われ脱落してしまう男。このあまりに広大な中国で生きていくことの厳しさ、その中でささやかな愛と幸福を追い求める人々の哀しい想いが胸に迫る。

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森 直人

ラジカルな作家の「ヒット作」

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

最も平易なジャ・ジャンクー作品だが、「個と時代」を描く作家的エッセンスは薄まっていない。前作『山河ノスタルジア』をさらに刺抜きし、時の流れに身をまかせ――といった風な17年にも及ぶ孤独に流転する女性像の背景に、中国の激動の現代史が映し出される。

広大な国土の「成長偏差」を活かし、移りゆく社会の風景を見事に伝えるロケーションの中、チャオ・タオがパートごとに『青の稲妻』や『長江哀歌』を彷彿させる姿で登場。作品群を同一の世界像で繋げていく「ジャ・ジャンクー・サーガ」の醍醐味も。タイトル(邦題)は井上陽水の名曲と同じだが、映画自体は2時間15分かけてしっとり歌い上げる極めて良質の大衆歌謡といった趣。

この短評にはネタバレを含んでいます
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