007/ノー・タイム・トゥ・ダイ (2021):映画短評
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ (2021)ライター4人の平均評価: 4.3
今、この時代のジェームズ・ボンドを描く
今、この時代にジェームズ・ボンドを描くならこうなるーーーということなのではないか。ダニエル・クレイグ版のボンドは、最初から生身の人間らしさが魅力だったが、彼の最後のボンドとなる本作は、それを際立たせる。彼は人を信じ切ることができず、そのことを悔やむ。肉親というものと縁を切れない。そうした普通の生身の人間を描くのに相応しく、血縁、復讐、バイオ兵器といった有機的要素が多用され、映像の質感も、サム・メンデス監督による前作/前々作の硬質さとは対照的に、暖かく柔らかく生っぽい。
楽しいオマケは、ベン・ウィショー演じるQの自宅でのオフ姿。今回のQは見どころが多く、Qファンは必見。
クレイグ版ボンドはハードボイルドに始まって、終わる
D・クレイグ版の『007』は、それ以前のシリーズ20作とは、まったく違うことをやってきた。物語の連続性や、恋愛や家族というドラマのポイント、ハードボイルドタッチ等々……そういう意味で本作はクレイグ版の“有終の美”。
亡くなった恋人ヴェスパーとの関係に決着を付けようとするオープニングからして終幕ムード。さらに最強の敵スペクターの思いがけぬ最後、命がけの戦いと、さまざまな要素を徹底的に煮詰める。
評価が分かれるのは『007』らしからぬ結末だが、クレイグ版ボンドが特別であったことを思えばアリ。ハードボイルドに始まったシリーズがハードボイルドに終わる。その正しさを支持したい。
心で闘ってきたボンドの最後の雄姿
思えばデビュー作の『カジノ・ロワイヤル』から常にパーソナルな部分の闘いを強いられてきたダニエル・クレイグのボンド。その最後の闘いもまた非常にその部分を突き詰めたものになっています。“007映画”としての在り方としては賛否両論が出ると思いますが、ダニエル・クレイグのボンドの最後の闘い物語としてはこの物語が最適解だったのではないかと思います。
アクション・ガジェット・ユーモア・セクシーさ、どの部分もボリューム満点です。シリーズ最長の上映時間の作品となりましたが、全く飽きさせることなく一気に駆け抜けます。ありがとう、そしてさようなら。
意外にも各スポットでの笑わせるネタが上品かつ効果的!
『カジノ・ロワイヤル』での新たなボンド像、その後の流れを考えた時、ここで見事に“5部作”として収まった感触。ひとつの達成感を味わえる。
カーチェイスや高低差を使った戦い、肉弾戦、銃撃も含めアクション演出は文句のつけどころがなく、「007」の長い歴史に目配せするネタの宝庫も感慨深い。新登場キャラではキューバの工作員、アナ・デ・アルマスがダントツの輝きで、もっと観ていたかった。ダニエルのボンドになってシリアスさが基本になったが、今回は要所のユーモアがどれも効果的でホッコリ。ゆえに飽きることがない。
ただ重要パートで「この展開と役をもう少し何とかしたら大傑作だったのに…」と思いにかられたのも事実。