アップグレード (2018):映画短評
アップグレード (2018)ライター5人の平均評価: 3.6
AIをお題にした小噺スリラーの秀作
A.I.の未来を描いたスリラーは珍しくないが、こういうやり方もあったか…と目から鱗。
主人公の復讐心で感情を高め、そこにテクノロジーを絡める。怪しいキャラクターを適所に配置する。ミステリーで牽引する。それらがパズルのように絡まり、フラッシュバック連打の『ソウ』的なクライマックスへ。
勘の鋭い人ならば、ある程度、結末は読めるだろうし、『狼よさらば』『マトリックス』などヒントを得たであろう映画は容易に思いつく。それでも、伏線を活かしつつ小噺的物語を丁寧に描き切った、リー・ワネルの手腕は賞賛されるべきだ。半身不随と超人的体力を表現したローガン・マーシャル=グリーンの熱演も光る。
AIに抵抗を抱くかも、なサイバー・スリラー
車の運転をはじめとするかなりの労働をAIがこなしてくれる時代に起こるかもな人間VSクノロジーが軸になっていて、利便性と背中合わせの危険性に警鐘が鳴る。といっても、創造性豊かなガジェットや痛快アクションを楽しむのが優先のサイバー・スリラーであり、難しく考える必要はなし。ある手術によってスーパーな相棒(?)を手に入れた肢体麻痺の男が愛妻を殺した犯人を追うのだが、『ヴェノム』を思わせる関係が意外な方向に転ぶのが実に新鮮! 主演のローガン・M・グリーンがT・ハーディに見えてくるのも仕方なし。普段はアシモフのロボット工学三原則など意識しないけど、こういう映画を見るとAIに懐疑心を抱き始めるね。
懐かしのB級&「ベストアクション・シリーズ」臭
クレジットが出ず、音声のみの斬新なオープニングで幕を開け、イマっぽく言えば、“AI版『寄生獣』×『ヴェノム』”だが、じつは『ターミネーター』×「ナイトライダー」的な近未来SF感。しかも、リー・ワネル監督にとっては脚本を担当した『狼の死刑宣告』に続く、『狼よさらば』リスペクトであり、復讐に燃える主人公は組織の男たちを想像以上に “酷い目”に遭わせる。30年前なら、同級生とマネしたに違いないカクカクした動きに、ムダにカットを割るダサさ、早い段階で読めるオチなど、懐かしのB級&「ベストアクション・シリーズ」臭がツボることもあり、DVDスルーか配信で、しれっと続編が製作される予感も!
'80年代テイストが光るSFアクションの小品佳作
暴漢によって妻を殺されて自分も半身不随になった男が、巨大企業が秘密裏に開発した人工知能を体内へ埋め込むことで身体能力が“アップグレード”され、犯人グループへの復讐を始めるのだが、しかしやがて事件の裏に隠された意外な秘密を知ることになる。監督・脚本は『ソウ』シリーズや『インシディアス』シリーズの脚本家リー・ワネル。『狼よさらば』×『600万ドルの男』的なリベンジ・アクションと思わせておいて、最終的に『ターミネーター』的な科学の暴走へと着地する構成が非常に巧い。今から20~30年ほど先を想定したリアルな近未来感、フィジカルな特殊メイクや生身のスタントを重視した’80年代的演出も好感触だ。
リー・ワネル監督はこれから注目作が続くので要注目
監督・脚本は「ソウ」シリーズの脚本家リー・ワネル。彼は"無名俳優で低予算でもストーリーが良ければ映画は面白い"という信念の持ち主なのではないか。そして低予算映画のテイストが好きなのではないか。彼はユニバーサルのホラー「透明人間」のリブート作を監督中、続いて名作「ニューヨーク1997」リブート作の監督にも抜擢されたが、それも彼のそんな主義/趣味のせいかも?
ワネルは本作でも持ち味を発揮。AIで身体機能をアップグレードして大暴れという設定がユニーク、主人公の動作が急に激変する演出も楽しく、加えてストーリーも面白い。主人公が妻の死の真相を探る謎解きミステリでもあり、その結末にも納得がいくのだ。