テッド・バンディ (2019):映画短評
テッド・バンディ (2019)ライター5人の平均評価: 3.8
Z・エフロンの脱アイドル演技に座布団(星)3枚!
いまだに何人殺したか謎な連続殺人犯の実話だが、視点は恋人だった女性リズのもの。なので、凶悪犯の意外にも普通な側面が描かれ、それが逆に恐ろしさを生み出す。人間の本質とは傍目では決して分からないのかもしれない。底知れない闇に生きたテッド役のZ・エフロンは、これでアイドル卒業だろう。チャーミングで口が達者な殺人犯を実に魅力的に演じていて、全米の女性が熱狂したのも納得なのだ。中盤で視点がぶれるのはきっと、監督自身がテッドの魔性にハマったのだろう。テッドが殺人を犯した理由もリズを殺さなかった理由も最後まで判明せず、犯罪者の心理って凡人には理解できないのだなと実感。
チャーミングな連続殺人鬼に観客までもが惑わされる!
全米各地で30人以上の若い女性を強姦・殺害した希代の連続殺人鬼テッド・バンディを題材にした実録映画なのだが、しかし本作が数多のシリアル・キラー物と大きく一線を画するのは、バンディと5年以上に渡って付き合い、我が子と一緒に同棲までしていた恋人女性の視点から描かれている点であろう。なぜ身近にいて気付かなかったのか?と誰もが疑問に感じるところだろうが、しかしハンサムで若くて物腰が柔らかいIQ160の聡明な青年に、ヒロインだけでなく観客までもがすっかり惑わされ、やがて「もしかすると本人が主張するように冤罪なのでは…?」との錯覚に陥ってしまう。そういう意味で、思わずゾッとさせられる映画だ。
交際相手の目から見たテッド・バンディとは
視点が、新しい。女性ばかりを狙い、実際の被害者は100人を超えると言われる殺人鬼テッド・バンディを、彼の犯行自体は描かず、犯行時以外の普段の生活をしているときのバンディがどんな人物に見えたのかを、複数の視点から描く。彼と交際していた女性、彼の弁護士、裁判を担当した検事に、バンディはどう接し、彼らの目にバンディはどのような人物として映ったのか。映画は、バンディ的な存在の真の恐ろしさは犯罪自体ではなく、彼らがそうした行為を行いながら普通の顔をして生活し、誰かに愛されもしたという点にあるのではないかと問いかけてくる。そんなバンディ像を描写するザック・エフロンの演技に説得力がある。
人は見た目が9割、だって!?
我々はこうも「イメージの良さ」に翻弄されるのか。自分が抱いた「好感」を修正するのがいかに難しいか。通例の犯罪映画とは全く異なったアングルから、ハンサム・温厚・知的という三種の神器(?)で世間を欺いた連続殺人鬼の恐ろしさを体感させる。これは監督のジョー・バリンジャーがNetflix『殺人鬼との対談』で事件を検証・分析し尽くしたからこそ高度に実現できたアプローチだろう。
『メタリカ:真実の瞬間』や『クルード~アマゾンの原油流出パニック~』など正攻法なドキュメンタリー作家が選んだ、真実のミスリードへと感情が入り込んでいく話法は非常に達者。水を得た魚のごときザック・エフロンの“快演=怪演”も凄い!
殺人鬼の物語というより、彼を愛した女性の心理劇
悪名高き殺人鬼の凶行を描くのではなく、その外面を何も知らない恋人の目線で描く、そんな独特の視点が味。
バンディは一見殺人鬼らしくない、人好きのする愛想のよい男だったが、ヒロインにとっての彼はまさにそんな存在。映画を見る側にも“この男が本当に殺人犯なのか?”と思わせるミスリードの巧みさが、彼女の揺れる胸中をとらえた心理サスペンスと絡み合い、スリルを引き立てる。
好漢Z・エフロンのバンディ役の怪演もさることながら、観客の”目”の役割を果たしたヒロイン、L・コリンズの疑心暗鬼の妙演も光る。バンディのドキュメンタリーを手がけたこともあるバリンジャー監督の、視点を変えたイイ仕事。