オリ・マキの人生で最も幸せな日 (2016):映画短評
オリ・マキの人生で最も幸せな日 (2016)ライター3人の平均評価: 4
フィンランド版『ロッキー』のテーマは愛!
小洒落た16ミリのモノクロ映像と時代設定のせいで一瞬、ヌーベルバーグ映画?と思ってしまう。やがて大試合を控えたボクサーの物語とわかるが、ボクシング映画にあらずというのがポイント。練習や減量、スポンサー接待に謀殺されて自分を見失いかけた主人公オリが心の拠り所を見つけ、真の幸福を手に入れるまでの物語なのだ。大試合に向けて必死なマネジャーとオリの温度差、お茶目なライヤと生真面目なオリの会話など思わずクスリとなる場面も多い。ラストのサプライズ演出でさらに心が温まるし、何度も見直したい作品だ。
運命の女性と出会ってしまったボクサーの「本当の幸福」
ボクシング映画らしからぬボクシング映画である。主人公は’60年代に活躍した実在のフィンランド人ボクシング選手オリ・マキ。アメリカ人チャンピオンとの対決という千載一遇のチャンスに恵まれる彼だが、そんな折に運命の女性ライヤと巡り合い恋に落ちてしまう。ボクシングとは関係ないスポンサー接待やプロモーションに追われ、本来なすべき夢や目標を見失い、ライヤへの想いを募らせるオリが、最終的に見出した「本当の幸せ」とは何なのか?…というのが本作の核心。16ミリのモノクロフィルムで撮影された映像はヌーヴェルバーグ的でもあり、しかし独特の素朴な味わいを醸し出す。ラストに本物のオリとライヤが登場するのも要注目。
モノクロ映像の光がまばゆい
1962年夏のヘルシンキ、一人の実直なボクサーが、フィンランド初の世界タイトルマッチ直前の周囲の騒動に巻き込まれながら、人生でもっとも幸福な日を手に入れる。人間は、自分にとって本当に大切なものは何かを見誤らなければ、幸福になれる。そんな実際はなかなか実現できない正論を、この映画は、ちょっと笑えたりもする話でありつつ、静かな感動を呼ぶ物語として描き出す。この雰囲気を生み出しているのは、何よりもモノクローム映像の古風なタッチだろう。60年代のヌーヴェルヴァーグを思わせる映像は、とくに野原や夜の川を映し出すときに、光がまばゆく美しい。そしてひそかにモノクロの短編コメディ映画の気配も漂わせている。