ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~ (2020):映画短評
ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~ (2020)ライター4人の平均評価: 3.3
地元開催のこの熱狂、おそらく東京では味わえない寂しさとともに
原田雅彦にそっくりな「カメ止め」濱津隆之、そして金メダルの瞬間の実況と、「微妙に似ている」と逆に「気になる」という、多くの人の鮮明な記憶を再現する難しさ。とはいえ本作の肝である知られざる裏話は真摯に伝わるので、素直に感動すべき作品。キャストでは山田裕貴が難役で健闘。後半、彼の役回りが重要になるのは、わかりやすい分、やや違和感あるけれど。
迫る東京大会と重ねてしまうのも、当然の感覚。密の観衆が熱狂する風景が今度は見られない切なさ。さらに五輪の意義に思いは巡る。タイトルの意味も、そのまま受け止めるべきか、わずかな皮肉を感じさせる瞬間もあり、時代の空気と合わせて観る、映画の役割を本作は達成する。
負け組たちが一丸となる姿をどう観るか?
原田雅彦選手が涙した金メダル獲得の裏にあった、もうひとつのドラマといえる本作。リアルタイムで、長野オリンピックを知らない人が観ても、負け組たちが一丸となって、奮闘する様は感動を呼ぶだろう。高校生ジャンパー役の小坂菜緒はファン以外が観ても合格点が付けられる芝居を披露しつつ、間違っても『哀愁しんでれら』にはならない田中圭と土屋太鳳が演じるおしどり夫婦っぷりにほっこり。そんななか、あまりにも美談としてまとまっていることや、タイトルからもにじみ出ているゴリゴリの精神論など、苦手な人はまるっきりダメな恐れもアリ。また、飯塚健監督らしい“遊び心”が失われたことは悔やまれる。
五輪バンザイ!……では終わらない!?
TOKYO2020の開催には懐疑的な立場だが、アスリートにはアスリートの生き方があり、感じ方がある。それを見据えた点では、なかなかの力作。
五輪代表に選ばれず、裏方に回ることになったテストジャンパーの葛藤。かつてともに闘った仲間に対して、“失敗しろ”と思ってしまう悔しさと自己嫌悪。それでも、自分が飛ぶとなったら全力を出し切るアスリートの習性。そのような人間観察が面白い。
熱血ドラマだけに五輪バンザイ映画ととる向きもあろうが、部外者の勝手なメダル信仰や、運営側の裏事情もとらえており、単純にそうとは言い切れない。飯塚監督らしい、どこか冷めた感覚が、そんな部分で生きている。
翔ぶ意味
知られざる日の丸ジャンパーの物語。原田雅彦が語った“みんな”のおかげの意味が今明らかになります。
田中圭、濱津隆之、古田新太というベテラン組もいいですが、小坂菜緒、眞栄田郷敦、山田裕貴の若手組の好演も光ります。
ただのテストジャンパーがただのテストジャンパーでなくなる一連の流れは実話ベースとは言え非常にエモーショナルで思わず熱くなるものがあります。
田中圭と土屋太鳳が夫婦役ですが今回は大丈夫です。ヒーローはどんな時でも誕生しうると言うことをこの映画は証明してくれます。