ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ (2020):映画短評
ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ (2020)ライター3人の平均評価: 4
あの絵本の次に
農場にある自宅の部屋にはゲバラの肖像が飾られ、いちばんの愛読書は?との問いに『ドン・キホーテ』と答える。信念を日常に定着させるムヒカの暮らし、それ自体に触れる事のできる時間が何より素晴らしい。有名な国連会議の映像も入る「入門篇」でありつつ、出口で渡されるのは我々に向けた「問い直し」の用紙だ。
監督を務めたフジテレビの若手ディレクター、田部井一真(映画は彼の一人称的視点で進む)は2016年の来日も実現させながら、当時作った番組は英雄譚の域を出ていないと苛立っていたらしい。その真摯さと執念が「ムヒカブーム」で終わらせぬ学びの記録になった。ムヒカが日本を対象化する言葉を多々提供してくれる事も貴重。
今すぐ、この人を日本のトップに据えたい!?
ひとりの日本人が尊敬の念をもってムヒカ元大統領を見つめる。そのまっすぐな視線が、なんとも清々しいドキュンメンタリー。
田部井一真監督は赤子の誕生というパーソナルな視点から、ムヒカとの出会い、その人間的魅力、さらにはムヒカと日本との接点へと迫る。それを起点に、"発展”よりも”幸福”を……という、人間にとって真に必要なものを問いかけるつくり。私的まなざしがやがて普遍をとらえる、そんな構造の妙に唸った。
何よりムヒカの人間性こそ本作の最大の魅力だ。利権と私欲で政策や法をも動かそうとする日本の政治家にはない清貧と高潔さ。それを望むのは、ファンタジーなのか? 羨ましいほどの現実がここにあった。
自身の言葉で語る政治家の新鮮で頼もしいこと!
公務員給与の大半を寄付し、慎ましく生活したことで話題になったムヒカ元大統領。コメディ『ハッパGoGo』に本人役で出演するなどお茶目なところがある彼の来し方、政治思想の成り立ち、そして人生観を丁寧に伝えるドキュメンタリーだ。哲学や文学に裏打ちされた人生哲学や幸福感は、消費主義に疲弊した私の心に深く突き刺さり、画面に向かって頷くことしきり! 貧乏なのは心が貧しいからと猛反省。田部井一真監督の素直な疑問から導き出されたムヒカが考える日本人観にも考えさせられた。日本の国会答弁を聞くにつけ白けた気分になるし、ムヒカのように自身の言葉で語る政治家の登場を待つばかり!