チィファの手紙 (2018):映画短評
チィファの手紙 (2018)ライター5人の平均評価: 4.6
本作の原型である『チャンオクの手紙』もぜひ!
心が馴染み、なついてしまう映画。いや、細部に目を通せば我々もよく知る、人生の理不尽さ、残酷さが見え隠れする。が、それを鞣(なめ)してゆくのが“手紙”という装置なのだ。不特定多数への即時的なつぶやきではなく、特定の相手への思い(あるいは念!)の込もった言葉が時を超えて、思わず人と人とを繋ぐ。改めて岩井俊二監督のストーリーテラーぶりに唸った。
日本版は『ラストレター』、中国版の原題は『你好,之華』。前者には登場しない或る人物のエピソードが映画の肝だ。現在無料配信中(10/2まで)、本作の原型となったペ・ドゥナ主演、ラストに手紙が物語を活性化させる短編『チャンオクの手紙』(17)も合わせて観たい。
『ラストレター』とは明らかに異なる抒情性とノスタルジーの香り
『ラストレター』の中国版リメイク…と思ったら、こっちの方が2年も前に作られていた。もちろん監督は岩井俊二。ストーリーもほぼ一緒だが、舞台が夏ではなく冬ということもあって、味わいはよりセンチメンタルだ。なにより、驚くほど物語が中国の風土に溶け込んでいて、これっぽっちも違和感がない。恐らく予備知識一切なしで見たら、中国人の手による純然たる中国映画と思うだろう。そればかりか、中国が驚異的な経済発展を遂げた豊かな現代と、人々の暮らしがまだまだ貧しく素朴だった’80年代という2つの時間軸の対比によって、日本版とは明らかに異なる抒情性とノスタルジーがひときわ香り立つ。
「80後」世代の青春映画として、見事なローカライズ
“『スワロウテイル』のピアノは、『君さえいれば/金枝玉葉』のオマージュ”と捉える者としては、岩井俊二監督がピーター・チャン製作で撮ることは感慨深い。後に手掛ける『ラストレター』との大きな違いは季節が冬になった程度だが、若き日の主人公が女性作家・三毛を好むなど、「80後」世代の青春映画としての中国映画感がハンパない、見事なローカライズだ。しかも、中年となった彼のルックが『Love Letter』の秋葉に激似だけに、『ラストレター』でのトヨエツ出演シーンの解釈が変わる面白さもアリ。相変わらず、若手キャストの使い方は巧いが、『妻の愛、娘の時』の名女優ウー・イェンシューもいいアクセントになっている。
なぜか懐かしを感じる中国版の岩井ワールド
岩井俊二監督が中国映画を監督とはすごいと思いつつ見てたら、自作『ラストレター』のリメイクでさらにびっくり。さまざまな後悔を抱えた大人と、まっさらな中学生を対比させながら人生の苦さを前向きな思いへ変えていく展開は変わらずだが、本作の方がしっくりきた。スマホ時代に手紙を書くヒロインも80年代の中学生の初恋模様も中国版だと違和感なく自然に受け取れる。不思議だ。ジョウ・シュンはじめとする出演者も感情豊かな演技を披露し、見る側をきちんと納得させる。細部が細々と異なるので比較しながら見るのも一興。ヒロインの姉(とその娘)」を演じたダン・アンシーの透明感のある美しさが強く印象に残った。
海外輸出の最良な一例
日本より先に映画化されていた『ラストレター』。
プロデューサーとしてピーター・チャンが入っていたこともあってか、思っていた以上に“岩井俊二”的な映画になっていて、嬉しい驚きです。
この時代になってもやはり手書きの手紙の重みは万国共通ですね。
回想シーンに関しては、今となっては日本版のよりも中国の地方都市の風景の方が時代の流れを感じることができます。
日本のアイデアの良質な海外輸出の例と言えるでしょう。中国版の『ラブレター』にも期待です。