SKIN/スキン (2019):映画短評
SKIN/スキン (2019)ライター5人の平均評価: 3.8
マッチョな男を取り巻く女性キャラにも注目!
足を洗ったヤクザや抜け忍となった忍者のように、更生を望んだレイシストもつらいよ映画。本作の出資を募るために撮った(世界観は同じだが、話はまったく異なる)短編同様、ガイ・ナティーヴ監督の演出は圧倒的であり、若干脚本の弱さもあるものの、後半のサスペンス展開まで引っ張る。ホアキン・フェニックス的な怪物の片鱗を魅せるジェイミー・ベルはもちろんのこと、ヴェラ・ファーミガ演じる組織のビッグママなど、マッチョな男を取り巻くカッコいい女たちの描写にも注目。なかでも、捜査官役として登場するメアリー・スチュアート・マスターソン! わずかなシーンながら、“30年後のワッツ”といえる雄姿に震える。
三つ子の魂百まで、ではなかったネオナチ青年の半生
白人至上主義者のネオナチが心を入れ替えた実話で、人生に行き詰まっている人を「人間は変われる!」とインスパイアするはず。増量し、全身にタトゥー・メイクを施したJ・ベルが主人公を熱演する。ただし、極右青年が変心した理由付けがやや甘い。もう少し父親との関係の深掘りし、差別教育の恐怖や特殊な信条を持つに至る過程も知りたかった。主人公の再生をサポートする活動家との関係もサラッと流していてもったいない。傑作になる可能性があったのに……。しかし、トランプ大統領誕生後にアメリカで確実に増えている(表面化した?)極右が“暴力的で無知で偏見に満ちた”存在と世界に周知する意味ではかなり効果があると感じた。
無知からの目覚めを描く、タイムリーでパワフルな物語
貧しく、愛されず、社会から取り残された若者が、よくわからないまま過激なグループに利用されていく。実話にもとづく今作でも、主人公はそうやってネオ・ナチの一員となった。そんな現代社会の暗い現実に心が重くなるが、今作で彼は勇気をふりしぼり、そこから抜け出そうとするのだ。そこには、大きな希望と、正義は勝つのだというポジティブなメッセージがある。言葉に出さずしても心の中の葛藤を表現するジェイミー・ベルの演技は最高。彼はこの世代の今の役者では、間違いなくトップクラスのひとり。「リトル・ダンサー」の少年がこんな立派になったのかと思うと、ちょっと胸が熱い。
人生、やり直しがきくと、全身全霊で訴える
全身に彫り込まれたタトゥーを激しい痛みも伴う手術で少しずつ消していくように、洗脳による差別主義の考えを、まわりに抗いながら少しずつ軌道修正していく主人公の苦闘に歯を食いしばり、残虐な報復行為には思わず目を覆い、「変われない」人々の横暴さに心底、腹立たしさを感じる。観ながら、肉体がストレートに反応してしまう作品。
アメリカの負の現実。その根深さを、人種差別への抗議が吹き荒れる今観るのは、ある意味で絶好のタイミング。とはいえ、社会派テーマの骨太作というより、人生リセットの思いに、個人レベルで感情移入できる作り。演じるのが、これまた共感誘発がうまいジェイミー・ベルというのもナイスキャスティング!
「差別主義者」のイニシエーション
ドキュメンタリーにもなった実話ベースだが、映画的ロールモデルは『アメリカン・ヒストリーX』(98年)辺りか。まさにあのエドワード・ノートンを彷彿させる苛烈な役作り(肉体改造含む)をジェイミー・ベルが見せ、白人至上主義グループのもとで育った青年が抱える葛藤や愛の飢えを壮絶に体現する。
先行の同タイトル短篇と比べても際立つのは、肉体にがっつり刻まれたタトゥー除去の手術シーンだ。その「痛み」が何度も、繰り返し強調される。差別や負の連鎖とひと口に言っても、そこには個々の人生や実存の問題がコミュニティの土地に深々と根を張っている。加害者が「(根こそぎ)抜ける」ことの困難を体感と共に伝える貴重な力作。