ナイル殺人事件:映画短評
ナイル殺人事件ライター5人の平均評価: 3.6
ポアロが愛した相手はクリスティそのもの? 感情表現も劇的に
新解釈によるポアロの戦争体験、愛した女性に、アガサ・クリスティ自身が重ねられてたり、これまでのポアロでは考えられない感情表現があったりと、クリスティ・ファンとしては驚きと感激のポイントがあちこちに。エジプトで撮ってない部分も多いのに、違和感ゼロで観光映画の魅力も十分満足させる。
ただ、原作、78年の映画、スーシェ版TVシリーズと、今作に深く耽溺してきた身としては、このトリックの衝撃を謎解きシーンで鮮烈に伝えられたか、今回、その最重要部分が物足りなかった。キャストの演技が総じて軽い印象のせいか。
キャラクター多様性への意識はもちろん理解しつつ、それなら時代設定など大胆に変えても良かったような。
ポアロの口髭に隠された過去も明らかに!
前作『オリエント急行殺人事件』からの橋渡しとなる原作に登場しないポアロの友人・ブークなど、設定変更で主要キャラの数が整理。さらに、愛憎劇としての要素がより濃厚になるほか、ポアロの代名詞である口髭に隠された過去の秘密も明らかになるなど、いろいろと驚かされる「リメイク版」。前作に比べ、若干オールスター感は薄れているものの、「セックス・エデュケーション」でブレイクしたエマ・マッキーや人気コメディエンヌ・コンビ「フレンチ&ソーンダース」の共演など、キャスティングの面白さも光る。前作からの時代錯誤感はありつつも、『あなたの番です 劇場版』とは異なる王道のミステリークルーズ体験といえるだろう。
贅沢さの映画化
ディズニーよりの招待を受けまして一足先に。
コロナ禍で公開延期にとなって映画が多くありましたが、この映画も約2年塩漬け状態でした。まずはちゃんと公開を迎えられて何よりです。
エジプト・ナイル川を舞台にした豪華で贅沢さに溢れた映画なので、やはり大きなスクリーンでないと魅力も半減です。
久しぶりに”異国情緒”というものを感じることができて、コロナ禍でどうしても内側に意識が向きがちの中で旅行をしている気分になりました。ケネス・ブラナーのエルキュール・ポアロもすっかり馴染んできましたね。次も見たいです。
「愛」というテーマが貫かれている
このケネス・ブラナーによるバージョンは、「愛」というテーマがより強調されている。その中心となるのはもちろんサイモン、ジャクリーン、リネットの三角関係ながら、映画はポアロの過去でスタート。この一連の出来事を通じて、彼も愛というものを見つめ直していくのだ。ブラナーは自分のキャラクターにより層を加えたわけだが、それを「良かった」と感じるか、「殺人ミステリーなのに、余計」と感じるかは、観る人によるだろう。78年のバージョンよりセクシーで、キャストも多様化した。そこもまた好き嫌いが分かれるかもしれないにしろ、アガサ・クリスティによる話自体が面白いので楽しめるはず。
大河に鳴り響く、あまりに切ないブルース
クリスティの原作や最初の映画化に触れた身には、前作『オリエント急行殺人事件』と同様にミステリーの点で驚きはない。それでも本作を楽しめたのは、愛憎のエピソードを徹底的に濃くしたからだ。
1978年の映画化版は比較的、原作に忠実だったが、監督・主演のブラナーは“激しすぎる愛”を各キャラに投影する。彼が演じた名探偵ポアロにさえ、それが見えるのが新味。
原作信奉者に、この改変がどう映るかは思い入れの度合いにも依るだろうが、親子愛や同性愛を盛り込み、人を好きになることの意味を問うた点がオリジナリティであることは認めざるをえない。『オリエント急行~』が軽妙なジャズなら、本作は切ないブルースだ。