すくってごらん (2021):映画短評
すくってごらん (2021)ライター4人の平均評価: 3.5
粋な遊び心で楽しませてくれる和製ミュージカル
ストレス社会の東京からのんびりした奈良県の田舎へと左遷された、エリート意識丸出しの鼻持ちならない銀行マンが、金魚すくいをこよなく愛する地元の人々から肩の力を抜いた生き方を学ぶ。ストーリー自体は実にたわいのないものだが、『ラ・ラ・ランド』を彷彿とさせる軽やかなミュージカル演出とラップ風に韻を踏んだユーモラスなモノローグ、そして和テイストを全面に押し出したカラフルな映像美が見どころ。このちょっとシュールな世界観と粋な遊び心が、和製ミュージカルにどうしても付きまとう違和感を解消する。後味の良さも含めて好感の持てる作品。
極彩色のポップに酔う!
原作をいかに刈り込み、一定のリアリティを保ちつつポップに整えるか? そんな試みにトライした作品として興味深く見た。
『ラ・ラ・ランド』的なミュージカルに落とし込んだ点が、まずイイ。台詞や字幕をアップテンポに連ねて、独特のコミカルなリズムを醸し出している点も面白い。
何より目を見張るのはカラフルな映像。日本家屋の街並の淡色と対を成す、屋内の赤や青は鈴木清順『陽炎座』やチャン・イーモウ作品の引用!? ともかく、シーンのひとつひとつが鮮烈。主人公の心情の変化を刈り込んだ点を、原作信者がどう思うかはわからない。が、色彩美という映画ならではの工夫は断然、光る。
幻想的な世界観と歌声に酔いしれる
とにかく、原作コミックを大胆に脚色している異色作であり、その世界観に入り込んだもの勝ちの一作ではある。とはいえ、目を見張るような金魚すくい屋の美術セットや主要キャラ以外のエキストラの顔をお面で隠す演出など、独特な世界観をしっかり作り上げており、畳み掛ける鈴木大輔によるポップでキャッチーな楽曲の数々のインパクトもデカい。そして、元から芸達者な尾上松也と百田夏菜子はもちろん、石田ニコルと柿澤勇人の好演も光る。予算の限界は感じるが、『ヲタクに恋は難しい』が大失敗に終わった要因をクリアし、日本のミュージカル映画では異例といえる成功作になっている。
不思議な魅力
原作とはテイストが違うという話も聞きますが、映画は映画でなかなか魅惑的な感触を与えてくれます。
歌舞伎役者の映画の使い方、特に現代劇での使い方はなかなか難しいところもあるのですが、今回は地方都市をある種の箱庭的な世界にしたこともあって、尾上松也がしっかりと生きています。
Wヒロインといっていいのでしょう、百田夏菜子と石田ニコルも実に魅力的です。
唄って、踊って、笑って、泣いて、すくって、恋する実に不思議な魅力を盛った映画になっています。