スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち (2020):映画短評
スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち (2020)ライター6人の平均評価: 4
真の『ワンダーウーマン』たち
感動した。この熱烈なスタントウーマン賛歌は、「裏方こそ真の主役」という視座からの「映画史の読み直し」作業でもある(しかも映画の黎明期から丹念に!)。ひとりのスター俳優とは「プロジェクト」であって、実際は他の肉体が演技貢献していたりする。それを我々観客は知らなくていい、という「夢」の在り方が20世紀的な把握だったわけだが、顔を隠した偉大な仕事人達の功績も込みで立体的に享受することが21世紀の映画史の読み方になるのだろう。
『ワンダーウーマン1984』のラストには75年~79年のTVシリーズで主演を務めたリンダ・カーターが登場したが、彼女のスタントを務めていたジーニー・エッパーが本作の「神」だ!
女性スタントの歩みはフェミニズムの歩みでもある
女性スタントに焦点を当てた珍しいドキュメンタリー。映画がまだ新興産業だった草創期には多くの女性が監督やスタントを任されたが、映画は金になると分かったとたん男性たちによって排除されたという歴史を紐解きつつ、今なお「男の職場」である撮影現場で活躍するスタントウーマンたちの奮闘ぶりに肉薄していく。やはり最大の見どころはテレビ『ワンダーウーマン』や『チャーリーズ・エンジェル』、映画『フォクシー・ブラウン』や『インディー・ジョーンズ』、『ワイスピ』シリーズなどの撮影秘話。中でも先駆者であるベテランたちのエピソードは実に面白く、女性スタントの歩み=フェミニズムの歩みであることもよく分かる。
先人から学び、彼女たちはその先へ進む
スタントウーマンという職業を俯瞰したドキュメンタリー。それだけでも映画ファンは必見だ。
『マトリックス』『ワイルド・スピード』シリーズなどの大ヒット作の陰で、女性スタントが活躍していたという事実はもちろんのこと、スタントウーマンが映画界でどのように扱われてきたかも紹介。性差別を越えてきた、その歴史も一望できる。
上手いのは、現役の若きスタントウーマンたちがレジェンド的な先輩にインタビューしていること。先人たちは赤裸々に、時に涙ぐみながら過去を語り、後輩はリスペクトともにそれを受け止める。フェミニズムの声高な主張ではなく、”継承”の美しさが、そこに見て取れた。
命をかけないのが本当のスタント!
ゾーイ・ベルのような有名人ではなく、画面に顔が映ることのない裏方が次々と登場し、体験談や裏話を披露する。スタントウーマンの初期映像からスタートし、女性ならではの苦労を重ね、偏見や差別と戦いながら彼女たちが映画界で確固たる地位を築いたことがわかる。自信に溢れるレジェンドたちがかっこよく、まさにバッドアスという感じ。ベテランの命の危険を感じるスタントは断るという発言が印象的だった。スタントは無謀さとは全く意味が違うのだ。またスタントウーマンの能力を認めながらも、スタントに女性を起用したがらない男性監督が多いという事実が興味深かった。いわゆる男女平等が難しい職種なのかもしれない。
試練への誘惑、差別への前向きな苦闘、そして楽しい裏ネタ豊富!
タランティーノがゾーイ・ベルを表舞台に出すケースはあったが、今作ではレジェンド的存在から現役バリバリまで、多くのスタントウーマンの赤裸々トークを収め、その実像に感動あり、サプライズありの充実内容。『マトリックス』など人気作のクリップとともに、意外な「仕掛け」も明かされるので、映画ファンなら隅々まで楽しめる。ジャンプや格闘、カーチェイスなど各スタントごとに大まかにまとめつつ、それらがキレイな流れになっている編集に、作り手の巧さを実感。何より「男性以上に実力を示さないと女性であるがゆえに見下される」事情を、シリアス一辺倒ではなく、未来を変える前向きさで語り、素直に共感させる爽やかさが高ポイント。
舞台裏でも戦い続けた「ハリウッド女性史」
スタントドライバーを含む、業界あるあるや必至アイテム紹介のほか、改めて死と隣り合わせなプロの仕事だと痛感させられる。そして、じつは産業化に伴い、男性に地位や仕事を奪われていたという「ハリウッド女性史」としても観ることができる一本である。ドラマ版「ワンダーウーマン」でリンダ・カーターの代役を務めたジーニー・エッパーら、業界のレジェンドを現役姐さんが取材するなか、製作総指揮でもあるミシェル・ロドリゲスも乱入。彼女たちの功績を称えまくる男性陣にポール・フェイグとともにポール・バーホーベン監督がおり、どこかプレイボーイ・チャンネルを見てるような感覚にも陥り、ちょっと面白い。