スプリー (2020):映画短評
スプリー (2020)ライター5人の平均評価: 3.2
SNSカルチャーの人気取り的側面を痛烈に風刺
ブラックコメディであることは、主人公にまったく共感できないことからも一目瞭然。動画のフォロワー稼ぎのためなら何でもやる、SNS時代のイヤなヤツの典型、か!?
やることなすことスベリまくる主人公の不器用さがおかしいのだが、人を殺して中継してもヤラセと切り捨てられて、まったくバズらない状況は、色々な意味でブラック。これは毒がキツい。
ネット越しに見る動画や疑似記録映像でビジュアルを構成。そういう意味ではフェイク・ドキュメンタリーに近い。J・キーリーの、そこら辺にいそうな軽薄YouTuber的なりきりも含めて、リアリティを感じさせる。
胸糞の悪さが、珍妙な味わいに
『search/サーチ』から2年余りで、POV映画がこのクオリティにまで達していることには驚きだが、ジョー・キーリーに思い入れがないかぎり、ひたすら胸糞悪いのが珍妙な味わいといえるブラック・コメディ。承認欲求がハンパない主人公の暴走していく悪ノリに観客が巻き込まれる不気味な感触は、あの『ありふれた事件』にも近かったりもする。とはいえ、こちらはスマホやGoProの自撮り、監視カメラの映像ということもあって、共犯者になっていく感覚は、ちょっと弱め。前半は“見せないこと”で恐怖を煽りながら、後半は“見せること”に徹底するなど、いろいろ考えているのは分かるが、もうひと捻りほしかったところ。
極悪非道なのに、通常モードの軽いノリで描くコワさ
SNSをバズらせるために過激な行動に出る設定は、フィクション作品からリアルまで、何度も目にしたパターンだが、本作の場合は最初から危険極まりない状況を繰り出してくる。そこが新鮮。
LAが舞台なのも重要で、“超”クルマ社会のこの街は、自分より道を熟知するドライバーを信じるしかない。変な場所へ連れて行かれてもギリギリまで判然としないことが多く、主人公の犯罪に信憑性を与える。
ただ前半から危うい行動が続くので、後半は「やりすぎ」感が上回ってしまう印象。もう少し、全体のバランスと流れが工夫されてたら傑作になったかも。
ジョー・キーリーが演技のトーンをあまり変えないところは、逆にスリルを増すのに効果的。
誰でもセレブになれそうでなれないSNSの高い壁
投稿1本で億単位の金が動くSNS界は、簡単に金儲けできそうだけど、実は戦略や努力が必要で厳しい。本作はSNSスターを目指すカートのやけっぱち行動の顛末を描く風刺劇だ。かつて子守りをした少年がSNSセレブなのに嫉妬し続けて10年といううだつの上がらなさがトホホだし、ショック映像でフォロワー増を目指す短絡性に呆れる。共感性の低いキャラだが『ストレンジャー・シングス』で“実はいい奴”っぷりを発揮したJ・キーリーの個性で引っ張る。邪悪なわけではなく、ただのおバカさんだ。M・バートンの扱いが雑で笑ったが、『SNL』出身のコメディエンヌ、S・ザメイタは見せ場が多い割には魅力が伝わらない。もったいない。
SNSに踊らされる今ならではのリアルを突きつける
SNSに踊らされる現代の断面を切り取って、目の前に突きつける。スマホ画面や車内に設置したカメラの映像を使って構成された画面と、それが次々に切り替わっていく速度がリアル。実際のリアリティ番組出演者やSNSの人気者たちが、SNSに夢中な人々を演じるというキャスティングがリアル。そして、主人公が誰もがしそうなことをしていて前触れもなく異常な行動をするようになる、その間の途切れのなさがリアル。登場人物はほぼ全員、画面上のSNSに無責任な投稿をする人々も含め、他人と共存するために必要不可欠な感覚が壊れている。そして、自分はそのことに気づいていない。そんな状況がリアルに感じられることが、真の恐怖を呼ぶ。