少年の君 (2019):映画短評
少年の君 (2019)ライター8人の平均評価: 4.3
2人の演技と、特異な例を見るべし
アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートを筆頭に、アジアの映画賞を総ナメにした力作だ。世界的な問題になっているイジメの実態を容赦なく描きつつ、どん底の世界で芽生えた2人の愛を言葉や直接的な描写に頼ることなく表現。岩井俊二監督を敬愛し、前作『七月と安生』ですでに才能を見せつけたD・ツァン監督の演出もさることながら、要望に応えた主演2人の素晴らしさよ。特にアラサーながら高校生役を難なくこなしたチョウ・ドンユイのコケティッシュな魅力と腹の座り具合は、安藤サクラを彷彿。ただし本作、エンディングに不自然な注釈が入る。行政からのお達しか。検閲が芸術をいかに損なわせるか。参考例としても見るべし。
イジメ問題を通して弱肉強食の社会を見つめる傑作
生き馬の目を抜く競争社会の現代・中国。受験戦争真っ只中の進学校で、イジメの標的にされてしまった成績優秀だが貧しい少女と、社会からの偏見に晒される孤独なストリートチルドレンの不良少年が、このあまりに残酷な世界を生き抜くためお互いを必要としあっていく。日本ではある意味、公開時期が非常にタイムリーな作品。自分たちなりに「正しくありたい」と願う純真な主人公たちと、結果的に彼らを追いつめてしまう罪深き大人たちの対比にも考えさせられる。学歴のない少年が将来有望な少女に言う「君は世界を守れ、俺は君を守る」へ込められた想いに号泣。凄まじいイジメ描写に思わずひるむが、しかし是非とも多くの人に見て欲しい。
見守ってくれる人がいれば生きていける
貧しい優等生少女ニェンと母親に捨てられた不良少年シャオペイが偶然出会い、互いにとって唯一無二の存在となる。過酷な受験戦争を背景にしたいじめ問題を軸にした純愛ドラマだ。社会の底辺にいるティーンが痛みを分かち合い、絆を深めていく過程でD・ツァン監督らしい情緒的な演出が光る! 主演のチョウ・ドンユイ&ジャクソン・イーの演技が圧倒的に素晴らしい。見つめ合って、泣き笑いする場面など号泣必至。世界的な問題となっているいじめだが、中国のそれは一味違いそう。ネズミを使ったいじめって、怖すぎるし。また格差問題やストリートチルドレンなどからは、モラルの欠如を招いた超大国の異常性が透けて見える。
これを観ずして、2021年ベストテンは語れない!
前作『ソウルメイト/七月と安生』と比べても、1カット1カットが放つ画力が格段に違う、エドガー・ライトも注目するデレク・ツァン監督作。『アンディ・ラウの逃避行』<<『泥だらけの純情』といえる、定番のボーイ・ミーツ・ガールで幕を開け、イジメや貧困、受験戦争といった青春残酷物語な描写がつるべ打ち。それが135分間続くという、精神的にも体力的にも、ハードでヘヴィな映像体験だが、それでもヤミツキになるカルト性は、『リリイ・シュシュのすべて』に近い感覚。検閲通過を意識した蛇足すぎるラストのテロップすら気にならなくなるほど圧倒的な一本であり、これを観ずして、2021年のベストテンは語れない!
君を信じていれば生きていける……。「ぼくのエリ」に似た後味も
イジメの対象がシフトするという、万国共通の切実な問題に真正面から取り組み、その描写も「リアリティ」と「でも見たくない」のギリギリを攻めてきて、うまい。主人公と同じ気持ちになって、怒りに身体が突き動かされる人も多いのではないか。シーンとシーンの交錯など映画的演出も効果的。
メインキャストの2人は、喜びと哀しみ、やるせなさ、そして絶対に相手に言えない想い、その微妙な揺れ動きを最上の表情で見せきり、何度もうならせる。
その関係性から『ぼくのエリ 200歳の少女』と重なる後味も。このようにジャンルも物語も超えたシンクロも佳作の証明。ただ、教育映画のようにテーマを伝える映像があり、そこだけ??な印象。
2人しかいない世界の色が鮮烈でみずみずしい
一途な純愛の物語。種類は違うが過酷な環境下で、自分より他に頼れる者のいない状態で生きてきた少女と少年が、偶然出会い、その人を守りたいと思う。すると突然、2人の目の前に別の世界が開ける。その世界を描く映像のみずみずしさ。色彩の鮮やかさ。オートバイに2人乗りして街を走り抜けるときの高揚感、開放感。それを映し出す映像は、撮影された国がどこかとは関係のない普遍的なものに見え、その思いが翻訳の必要なく伝わってくる。エンドクレジットで、熾烈な受験戦争での陰湿なイジメ問題を取り上げる啓蒙映画であるかのような形を示しているが、それは形式で、本国での大ヒットの理由はこの純愛の鮮烈さゆえだろう。
青春の痛み
とにかく、殺伐さが心に刺さる青春の痛みそのモノを具現化した映画です。
登場人物の多くが、穢れがまだない中で展開される物語はシンプルなだけに、そこにある痛みはよりクッキリと浮かび上がってきます。
デレク・ツァン監督は、チョウ・ドンユイ、イー・ヤンチェンシーの主役の二人が今、この瞬間でしか放つことのできない輝きを切り取り、映画に焼き付けました。主演の二人の痛みと儚さを纏った演技からは目を離せません。
アカデミー賞国際映画意匠のノミネートを筆頭に各映画賞・映画祭絶賛も納得の一品です。
胸が苦しくなる一本ですが、必見の一本です。
「学校という戦場」を描くバトンリレー
『ソウルメイト』が『花とアリス』(04年)なら、こちらは『リリイ・シュシュのすべて』(01年)。前作で安生役を好演したチョウ・ドンユイが、あの伝説的名作の蒼井優、伊藤歩、市原隼人らを凝縮したようなイメージをハードに背負う。もちろん先行作からの影響よりも、中国現代社会のリアリティに基づいた「変換」のほうが重要であり達成の決定点だ。
この壮絶ないじめ問題と受験戦争の背景には、急成長により歪みが生じたアジアの経済格差があり、タイの傑作『バッド・ジーニアス』(17年)に通じる。シャオベイ役のイー・ヤンチェンシー(TFBOYS)は青春スターそのもの。アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートも納得だ。