野良人間 獣に育てられた子どもたち (2018):映画短評
野良人間 獣に育てられた子どもたち (2018)ライター4人の平均評価: 3.3
メキシコ社会の暗い闇を炙り出すファウンドフッテージ映画
メキシコの片田舎で30年前に起きた不可解な火災事故。その真相を探る取材班が入手した古いビデオテープには、森の中で発見した野生児たちを育てる元神父の孤独と狂気が克明に記録されていた…というファウンドフッテージもの。基本的には社会学的な要素を孕んだ大真面目な作品で、年間10万人が誘拐される児童人身売買に根強い宗教の迷信、私刑が横行する閉鎖的な村社会など、現代メキシコ社会の暗い闇をじわじわと炙り出していく。なので、『食人族』や『V/H/S』シリーズのようなキワモノ系のホラー・モキュメンタリーを期待すると肩透かしかもしれないが、試みとしては非常に面白く興味深いものがある。
メキシコの森には、深い深い闇がある!?
サディスティックなB級ホラーを連想させる邦題だが、内容はいたってシリアス。野生児を発見し、保護した元聖職者がたどる悲劇を、フェイクドキュメンタリー型式で描く。
ベータのビデオテープで再生される主人公撮影の過去映像と、現在の取材映像で構成され、悲惨な火災事故の真実が明かされていく。森の中の一軒家という空間は、閉ざされた空気感を醸し出すに十分。
そこにあぶり出される暗い秘密が鮮烈。親子の闇、信仰の闇、そして村社会の闇。明かされない謎に少々モヤりもするが、恐怖を醸し出す”闇”と思えばこれもアリだ。なんといっても親の愛を知らずに育ち、折檻に走る主人公の心の闇。これは深い。
悟りを求めすぎるのも危険な気が……。
トリュフォーの『野生の少年』的な感動作ではなく、宗教に傾倒しすぎた元修道士ファンの恐るべき犯罪が暴かれるサイコ・ホラー。未解決事件を検証する取材班が掘り起こした記録ビデオやインタビュー映像で構成された物語がファンの精神状態の変化を克明に追い、彼が再発見した神と対話を始めるに至っては息苦しさすら覚える。宗教を否定する気はないが、悟りを求め、信仰に依りすぎたがために人格崩壊する様はただただ恐ろしい。彼は森に監禁されていた子供たちを助け、文明社会に復帰させようとしたいい人なのだが、毒母の教育によって歪んでいたのだろう。親の因果が子に報いってことだな。難役を子役が熱演する。
神話的物語にもB級ホラーにも見える奇妙な世界
80年代のメキシコ山村の実話を基に、残されていたビデオテープ映像と関係者の発言で構成するという設定の擬似ドキュメンタリー。森で発見された四足歩行で言葉を話さない子供たちと、彼らを人間と同じように行動させようとする元牧師を描くのだが、その男もまた子供時代に深い傷を負っていて、動機には信用が置けない。ポイントは、これが人間とは何かを描く寓意に満ちた神話的物語にも見えつつ、同時に『テキサス・チェーンソー』シリーズ系の土地柄に根差したご当地ホラーのような、暗く湿った森のある辺境の地ならでは恐怖譚にも見えてしまうことなのではないか。善を希求する物語がB級ホラーでもあるという奇妙な世界が味わえる。