スーパーノヴァ (2020):映画短評
スーパーノヴァ (2020)ライター6人の平均評価: 4
名優ふたりの美しき競演に酔う
中盤の帰省場面を除けば、登場人物は主人公カップルのみ。それだけにふたりの主演俳優の役割は大きく、C・ファースとS・トゥッチの肩に本作のクオリティがかかっていると言っても過言ではない
表情や目線の移動、セリフの間合い、ため息、呼吸などに、深い愛情とそれゆえの葛藤がみえるのはさすが。彼らは私生活でも友人同士とのことだが、息の合った共演はそこからもくるのだろう。
名手D・ポープのカメラワークも素晴らしく、緑と泉が混在するイギリスの湖水地方の風景が映える。ふたりの男の絆が切なく見えるのは、そんな映像の効果も大きい。美しい映画だ。
愛する者との「別れ」を感動的に描く成熟した大人の映画
長年一緒に暮らし、人生の苦楽を共にしてきたパートナーのサムとタスカー。作家であるタスカーの認知症が進行したことから、まだ記憶があるうちにと彼らは愛する親戚や友人のもとを訪ねて交流を深め、静かな田舎の一軒家で2人だけの時間を過ごそうとするものの、しかし迫り来る病の現実と向き合わねばならなくなる。「人生の終末」をテーマにした普遍的な夫婦のドラマ。主人公が男性同士という設定は特に大きな意味をなさない。同性婚が法制化されて10年近くたつイギリスだからこその成熟した大人の愛の物語と言えよう。2人が車で旅をするイギリスの田舎の牧歌的な美しさにも目を奪われる。
男性同士であることを、ここまで忘れさせる作品は珍しい
20年連れ添ったパートナーが記憶をなくしていく病となり、思い出をたどる旅をつづる感動物語は、あちこちに長年の愛情関係がさりげなく表現され、その部分に泣ける。やや上から目線で、軽妙なノリもみせつつ、迫り来る運命と必死に向き合うS・トゥッチ、それを大らかに受け止め、愛する人を喪失する無常観を静かに伝えるC・ファース(ピアノ演奏も本人!)。まさに「感情がにじみ出る」という至芸を堪能。イギリス湖水地方の風景にも癒し効果がある。
しかし本作が最も大胆なのは、男性同士のカップルという点を、家族や友人の受け入れ方、セリフでもまったく強調しない点。そこに物足りなさを感じる人もいるだろうが、先進的と受け取れる。
円熟味あふれる演技合戦を堪能
ほぼほぼ、2人の主人公の会話のみで淡々と進んでいく、まるで舞台劇のようなロードムービー。つまり、回想シーンがない構成だが、例えば地図派とカーナビ派の違いなどから、双方の関係性や過去がどんどん見えてくる。スタンリー・トゥッチが相手役に、20年来の親友であるコリン・ファースを独断で指名し、それだけ息の合った掛け合いを魅せてくれるからだ。まさに、円熟味あふれる演技合戦を堪能する一本であり、誰にも訪れるであろうシンプルな愛の物語。だからこそ、誰にでも届き、ファース自身がピアノで奏でるエルガーの「愛の挨拶」の旋律は沁みまくる。ただ、欲を言えば、もうひと捻りほしかった感はある。
深まる秋の光景が静かに胸に染み込んでくる
2人が旅する英国の秋の風景が、人生の秋を歩む2人の心情そのままに、しっとりとして美しい。撮影は『ターナー、光に愛を求めて』『ピータールー マンチェスターの悲劇』の英国も美しかったディック・ポープだ。
純度が高すぎる純愛がストレートに描かれるのだが、2人がもう若くなく、それが長い時間をかけて育まれてきたものなのと、彼らの関係が台詞ではなくちょっとした仕草や表情から伝わってくるので、そのまま腑に落ちる。2人の感情の細やかな動きだけで構成されたシンプルな作品なのに見ていて飽きないのは、芸達者2人が演じる、言葉にしないのに顔や動きに出てしまう思いを、ずっと読み取り続けずにはいられないからだろうか。
ひとつの正しい答がないことの苦しみ
人生をずっと共にしてきた人が、辛い病気の診断を受けた。最後まで愛する人を世話すると決めるも、自分のことを同じくらい愛してくれる相手は違うことを考えている。そんな重く、現実的なテーマを語る今作の最大の強みはファースとトゥッチ。ふたりの間で交わされる冗談や何気ないやりとりなどがとても自然で、長いこと一緒に暮らしてきたカップルだと本当に信じられるのだ。だからこそ、彼らが避けられない未来に向き合おうとする時、胸が張り裂けそうになる。少しずつ病状が悪化する様子をさりげなく描写するのもうまいし、余韻を残すラストも、ひとつの正しい答はないのだということを強く感じさせる。