ダーク・アンド・ウィケッド (2020):映画短評
ダーク・アンド・ウィケッド (2020)ライター5人の平均評価: 3.4
得体の知れない恐怖がじわじわと精神を蝕んでいく
アメリカの寂れた田舎の牧場。病気の父親の看護をする母親を手伝うため、久しぶりに実家へ帰って来た姉と弟は、陰鬱な空気の漂う家の中に禍々しい「何か」の存在を感じ取る。それが果たして悪魔なのか、なぜこの家が狙われるのかなど余計な説明を省き、現実とも錯覚とも知れぬ怪現象に脅かされる主人公たちが、その恐怖と不安によってじわじわと少しずつ精神を蝕まれていく。この真綿で首を絞められるようなホラー演出がなかなか秀逸。コーエン兄弟作品に出てくるような、荒涼とした田舎の風景がまた不穏なムードを盛り上げる。それでも姉弟が呪われた家に執着するのは、生まれ育った故郷や両親への想いゆえ。それがまた哀しい。
老いる親と、生きる子、その狭間に悪魔を見た!
中年以上の大半は、年老いた両親と離れて暮らすことに何らかの罪悪感を抱いているはず。このホラーは、そんな心理の弱みを巧妙に突いてくる。
荒野や牧場の風景はもちろん音楽も不穏で、孤独な老父母の描写に引き込まれる。“帰ってくるなと言ったのに!”という母の言葉のミステリー、唐突に訪れる死の逸話など、畳みかける構成も巧い。
オカルトと心理スリラーの間を狙っており、どちらにも解釈できる内容。裏を返せば曖昧なのだが、両親と離れている筆者には、なんとも怖い映画であった。ホラー専門家ペルティノ監督のイイ仕事。やつれゆくヒロインの表情や、屋内の陰気な描写がこれまで以上にサエを見せる。
静かにサスペンスを高め、ドカンと恐怖が来る
設定自体にそう新しいものはないのに、とにかく怖いのだ。なぜその現象が起こっているのか理由が説明されないのも、恐怖を高める。何かが起こりそうな、静かで怪しい雰囲気で引っ張ったかと思うと、突然、残酷で恐ろしいシーンがドカンと来る(それらのシーンは怖すぎて目を開けていられなかった)。スーパーナチュラルな話であっても、主人公ふたりがリアルに描かれているのも、今作の強さ。普通なら「逃げればいいのに」と思うところでも、死を間近に控えた父を置いていけない責任感は説得力がある。彼らが見るものは本当にそこにあるのか、あるいは幻想なのか、観客をも混乱させていくその手法がなんともうまい。
“邪悪なもの”が忍び寄る7日間
人里離れたテキサスの農場を舞台にした『レリック-遺物-』にも通じる、7日間の介護ホラー。帰省した姉弟の前に現れる人々はどこか不敵な笑みを浮かべ、常に“邪悪なもの”の視線を感じるなど、次第に『ヘレディタリー/継承』『ロッジ-白い惨劇-』にも通じるオカルト要素が濃厚になっていく。『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』『ザ・モンスター』のブライアン・ベルティノ監督だけに、ライティングや音響効果を駆使した忍び寄る恐怖の演出力は長けているうえ、ニンジンからの指みじん切りや家畜大虐殺など、絶妙なタイミングでのゴア描写も用意。とはいえ、ベルティノ監督の前2作に比べると、地味な印象は否めない。
それは、静かにゆるやかに忍び寄ってくる
薄暗がりの中、気のせいで見えてしまうものと、気のせいではなくそこにあるもの。しかし、その二者にはどんな違いがあるというのか。そういう恐ろしさが、ごくごくゆるやかに忍び寄ってくる。
主人公とその弟が、自分たちが生活をしている場所から遠く離れた土地にある、老いた両親の住む田舎の一軒家を、かなり久し振りに訪れて、奇妙なものを見る。しかしそれは、両親を放置している自分の疾しさが見せるものなのかとも思われる。その気持ちがなければ、ただ美しいだけのはずの夕焼けが、禍々しいものに見えてくる。夜中にふと電灯がつくと、それが自分の勘違いのように思われてくる。そういう静かな恐ろしさが生々しい。