スウィート・シング (2020):映画短評
スウィート・シング (2020)ライター3人の平均評価: 3.7
子供たちを愛し守るべき大人の責任
優しくて愛情深いけれど不器用で酒癖が悪い父親が強制入院となり、身勝手な母親のもとに預けられたローティーンの姉と弟。しかし男に頼らねば生きていけない母親は、愛人のDV男による子供たちへの虐待に見て見ぬふりを決め込む。そんな状況に耐えかねた姉弟が、同じように複雑な家庭事情を抱えた少年と3人で逃避行の旅へ出る。モノクロの荒んだ日常と柔らかな色彩に溢れた束の間の幸福。アレクサンダー・ロックウェル久々の日本公開作は、子供たちの視点で残酷な世界を見つめながら、本来ならば彼らを愛し守るべき大人たちの責任を静かに問う。素朴で詩情豊かなタッチが無邪気な少年少女の痛みと悲しみを際立たせる。
愛に飢えた子供たちの話が、愛をもって語られる
不幸な家庭環境に生まれた子供たちが一緒に逃げ出し、冒険をする。そんなシンプルなストーリーが、モノクロの、自然かつ美しい映像で描写されていく今作には、クラシックなアメリカのインディーズ映画への敬意が感じられる。貧困、虐待、ネグレクト、依存症、さらに人種差別といった事柄が語られるが、暗くなりすぎないのは、作り手の視点に愛があるから。主人公のふたりを演じるのは監督自身の子供、彼らの母親を演じるのは監督のパートナー。それも、家族の絆をリアルに見せ、温かいニュアンスをプラスすることに貢献しているだろう。思わぬお宝を発見した気持ちになれる、小粒で素敵な傑作。
少女が美を見つけるとき、世界が鮮やかな色に満ちる
アレクサンダー・ロックウェル監督が自分の子供たちを主演に描く、15歳の姉と11歳の弟が生きる環境は悲惨とも言える状態なのだが、それを映し出す粒子の粗いモノクロ映像は、どこか夢のような柔らかさと甘さを漂わせる。その理由の一つは、その世界がまだティーン未満の、子供と若者の端境期にある少女の目に映るものだからだろう。そしてもう一つの理由は、その画面がときおり急に鮮やかな色彩に満ちるからだろう。その色は、少女がただ純粋に世界の美しさに感動するときにやってくる。それは現実での体験のこともあれば、彼女の夢想の中での出来事だったりもする。彼女にとってその2つに価値の違いはない。その世界がたまらなく美しい。