笑いのカイブツ (2023):映画短評
笑いのカイブツ (2023)ライター2人の平均評価: 4.5
どんな言葉も届かぬほど凄まじい
「人間関係不得意」の青年ツチヤタカユキを演じる岡山天音が“文字通り以上”の圧巻! 「社会の異物」的な孤独な実存へのアプローチは『キング・オブ・コメディ』のデ・ニーロや『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを彷彿させるが、ツチヤの核は剥き出しの感受性を世界に晒した蒼い潔癖さ。「俺は“正しい世界”で生きたいねん!」との叫びでこちらは本気で落涙した。
原作小説はゴリゴリ一人称だが、映画は主人公を丁寧に対象化した人間群像劇。総体は愛と信頼の映画に仕上がっていて、その意味でも監督の滝本憲吾は、師匠格に当たる井筒和幸の直系的な後継者だと思う。漫才監修が令和ロマンってのも「持ってる」映画の証拠!
オモロいだけが正義の世界、その“地獄”を行く
笑いを生み出す才能はあるのに、それを発揮するには社会性に欠ける。そんな原作者の若き日々が、実話に基づいて描かれる。
とにかく彼は、観ていてもどかしくなるほど他人と触れ合えない。一方で、“オモロい”ネタを生み出すことに関しては天才的。それを認めてもらうために世に出ようとしても、人間関係が不得意であるためにはねのけられる。才能と熱意だけではどうにもならない、そんな“地獄”を生きる者の物語は、このうえなく重く、熱い。
役者陣は皆それぞれイイ味を出すが、やはり主演の岡山天音の存在感が圧倒的。ネタ創作以外に自己表現の手段がない者の身悶えするほどのもどかしさが、その熱演から伝わってくる。