死刑にいたる病 (2022):映画短評
死刑にいたる病 (2022)ライター6人の平均評価: 3.8
『凶悪』から10年
獄中の死刑囚と彼の証言の裏付けを取るうちに過去の事件の沼にハマっていく男という奇妙な関係性。つまり、10年前に白石和彌監督が注目された『凶悪』のアップデート版といえるだろう。そんななか、同じサイコパスでも、おなじみの絶叫系ではなく、囁き系の阿部サダヲがレクター博士を踏襲した芝居で不気味さを醸し出していく。ほかにも、『ウェディング・ハイ』から本作への流れで一皮剥けた感アリな岩田剛典など、キャスティングの妙が功を奏している。さらに謎解きの面白さに加え、PG12にしてはなかなかのグロ描写など、攻めるところは攻め、この10年間の白石演出の成長を垣間見ることができるだろう。
心の隙間につけこむ連続殺人鬼の狡猾さにゾッとする
20人以上の少年少女を拷問・殺害して死刑を宣告された連続殺人犯から、平凡な大学生のもとに届いた手紙。唯一、犠牲者が成人女性だった事件だけは自分の犯行じゃない。その主張を裏付けるべく真相解明に乗り出した若者は、やがて言葉巧みな犯人に惑わされ翻弄されていく。『羊たちの沈黙』を彷彿とさせる殺人鬼と若者の心理的な攻防戦。自己肯定感の低い若者にターゲットを定め、その心の隙間につけこんでマインドコントロールしていく犯人の狡猾さが、残酷で血生臭い殺人行為よりもさらに恐ろしい。日本人は世界でも特に自己肯定感が低いとされるが、その背景となる社会の閉塞感も浮かび上がる。原作とは違うラストも不穏な余韻を残す。
スリラー?、社会派? あるいはその両方!?
虐待された子どもは自尊心に欠けたまま成長してしまう傾向にある……そんな現実に目配せしつつ、サイコな恐怖談を構築したスリラー。
阿部サダヲふんする獄中の連続殺人鬼がレクター博士級のキーパーソンになっており、彼の撒いた種がどこまで広がっているのかわからないのがミソ。DVの生々しい傷跡を含め、明かされる事実は衝撃的だ。
人を操ろうとする邪悪な人間は、確かに存在する。そんな事実を俯瞰させるという点でも、本作は恐ろしく、かつスリリング。最初にインパクトをあたえ、その後はただ映るだけでゾクゾクさせる“爪”の描写を含め、白石監督の洗練されたバイオレンス演出に唸った。
むしろ阿部サダヲはサポート的。影響受ける側の本能めざめが怖い
猟奇的殺人犯と、対峙する者の物語なので『羊たちの沈黙』など過去の名作も頭をかすめつつ、犯人側の狂気の源や快楽的描写には深く踏み込まない。だからグロいシーンもあるにはあるが、そこまで拒絶反応は起こらない。話題となっている阿部サダヲの熱演は、むしろ控え目。そこに雲をつかむような怖さが備わっている。
設定から同じ白石監督の『凶悪』と比較されるが、今回は事件の真相以上に、岡田健史が演じる“調べる”側、その彼の自分探しと本能のめざめのプロセスが劇的で、そっち方向に引きずり込まれる。
死刑囚との面会の前後や、書類を整理する際の準備など、何気ない描写や人物の言動に他の映画では見られないリアリティを発見した。
ひとつ事実が判明するたびに戦慄を呼ぶ
容疑者についても、主人公についても、彼らが考えていることのすべては明かさない脚本で、最後まで引っ張っていく。どんな事件が起きたのかは克明に描かれるのだが、彼らがどのような背景を持っているのかは、最初は明かされず、少しずつ判明していき、ひとつ事実が判明するたびに戦慄を呼ぶ。事件の真相の解明とはまた別に、2人の心理がどう動くのかという物語で興味をかき立てる。そんな2人のドラマを、阿部サダヲと岡田健史の佇まいと表情が支える。
加えて、最初から最後まで、映像の色彩がドラマに合わせてきっちり作り込まれている。冒頭の水門のシーンから、光量の少ない暗い場面でも、画面の色が濁らない。
ひたひたと
『凶悪』に続く白石監督の面会室映画?最新作。阿部サダヲがとにかくひたひたと心を犯して来て、怖くて仕方がありません。彼の所業は非道としか言いようがない事なのになぜに惹きつけられるのでしょうか?
メインに翻弄される岡田健史ですが、ほかのキャラクターの翻弄され具合にも注目です。
白石監督作品なので描写の面では相変わらず容赦がないので、多少気持ちの準備が必要ではありますが、やはり見逃せない一本と言えるでしょう。
仕掛けも多い映画で、それを読みながら見るか、素直に仕掛けにはまりに行くか二通りの楽しみ方ができます。